歯車T

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見たい。


見たい。


ひとみが私を前にまた赤く頬を染めるのを。

それに深い意味はないということは分かっているが、それでもいい。


見たいんだ。






浴室の使い方を教えてもらった。
シャワーを使うだけの為、少し使い方は違ってもそれほど珍しいものではなく、すんなり理解することができた。

そのままの流れでシャワーを浴びることに。



脱衣所という狭い空間には

私とひとみの二人だけ。



私は一人上着を、服を脱いでいく。

その隣で彼女は平然と着替えやタオルを用意してくれている。



そう、平然と。

特に顔色も変えず。



ック!


恥じらって頬の色を染める、その表情が見たい!



「下も脱ごうか?」


などと、そんな馬鹿な考えから言ってみてもサラッと流された。

朝はあんなに可愛らしい反応をしてくれたというのに、もう耐性ができたというのか。

なんとも切ない話だ...



上半身の服を脱ぎ、脱いだ服はひとみに促がされるまま洗濯ものを入れるカゴに入れると、鏡に映る自分が見えた。



包帯が、とてもきれいだ。
汚れた後も、傷が開いた後もなく、色は真っ白。

あまり意識しないようにしていたが、痛みも最初に比べるとだいぶ治まっていて問題ない。
妙な違和感はあるが...


鏡を見ながら考えていると
すぐにひとみが包帯を解きに来てくれた。




正面から

傷口に衝撃を与えないようにしてくれているのだろう
丁寧に、優しく
私の胸に、肩に、背に手を回していく。



私の胸に手をのばすとき
向き合っているその距離は離れているものの

背に手をのばすときは
まるでひとみから私を抱きしめているようで


気持ちが高揚してくる。


鏡に映る今のこの二人の状態を目に焼き付けておこうかと思ったが、

本人が私の目の前にいるんだ。


虚像に目を囚われるのはもったいないなと

目の前の本物に
私に手をのばしてくれるひとみに

目を向けた。



頬はその色を変えてはいないものの
包帯を解く手は少し緊張しているのか、動きが硬い...

もう包帯を解くのは2度目。

解くだけだ。
緊張することもないのではとも思うが、
昨日と今日では場所が違う。
空間も格段に狭ければ、照明も若干こちらの方が暗い。

それが理由で少しでも意識して緊張してくれているなら嬉しいなぁなどと考えていると

突然

みるみるうちにひとみの顔色が変わる。
顔色だけではない。
耳や首まで少し赤く染まっている。

彼女の視線を辿ると、
そこには私が先ほどまで見ていた鏡があって
あぁ、今やっとこの人は今の状況を理解してくれたのかなと思った。

それでここまで反応してくれるとは...

たまらんな。


...


いや、しかしだ。

もう結婚してしまうのではないのか?
恋人とともに住んでいるんだ。
男を知っているのではないのか?
慣れていないというのか?

高ぶった感情にセーブがかかる。

セーブするためにせよ
自分で勝手に考えたことに一人嫉妬したり都合のいい答えを考えたり。

ハハッ

恋は人を愚かにするというが本当かもしれんな。
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