歯車T
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ガラガラガラ
「もしもーしもーしもーし」
「ごめんもー一回。」
「え?なんて?」
「ごめん電波悪いんかな、よく聞こえない。」
「え?」
「ハァ?今のは聞こえましたけど?」
「うそ違うわコノヤロー。あ、そう。今日はおかずいらないのね。いっぱいから揚げ作ったのに残念だわ。まあそんなに食べたくないならしょうがないね。」
「...ほー。」
「今のが本心ですか。わかりました。」
「もう。今どの辺り?」
「あぁはいはい。じゃあ後30分かからないね。」
「うんわかった。お疲れ様。」
「ん?いや、特にないから、何もないならまっすぐ帰っておいで。」
「怒ってないから。そんなちっさい女ちゃうよ。」
「ん、気をつけて帰ってきてね。待ってます。」
「はーい、じゃぁ後でね。」
風呂からあがるとひとみの声が聞こえてきた。
歌では無いようだが、一人で長々と言っている。
なんだ?
気になる...
素っ裸のままひとみのもとへ行くこともできないしな。
よくないかとは思いつつも耳を澄まして聴いてみると、やはり電話で話しているのか、会話のようだった。
...
楽しそうだ。
あぁ、実に楽しそうだ。
少し不機嫌そうな声を作っている時もあったが、やはりそれは作っている声なのだろう。
すぐにまた機嫌のよさそうな高い声に戻っていた。
...和真か。
話の様子からするともう30分もせんうちに帰ってくるんだろうな。
...
結局風呂に入っても頭の中はスッキリすることができず、
それどころか悶々とした気持ちもプラスされて少し悪化したかもしれない状態だった。
しかしまぁあれだな。
いいタイミングで電話してくれているものだ。
お陰で頭の中がスッと冷えて冷静になれた。
あんな状態だったら調べ物をするにも全く集中できんかっただろうし
ひとみを、本人を前にしていやらしい目で見てしまったかもしれん。
例え行動に移さなくとも、思考だけでも彼女の前では下賤な輩にはなり下がりたくはない。
彼女を不快にさせるような存在になりたくはない。
忘れるな。
あの人は他の男のものだ。
普段から和真の名を進んで口に出すのは
それを忘れないためだろう。
思い知らせるためだろう、自分のものにはならないと。
いかんいかん。
濡れた素っ裸のままはさすがにいかん。
床も濡れてしまうな。
ひとみの声と己の思考に集中し過ぎて拭くのを忘れていた。
せっかくひとみが用意してくれたのに...
お、
このタオル、気持ちがいいな。
なかなか柔らかくて肌触りもいい。
早々と濡れた体と拭いて下だけ服を着、頭を拭きながらリビングへ向かった。