歯車T

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ロイをお風呂に送り出してから
和真がいつ帰ってきてもすぐごはんの準備ができるようにお皿の用意をしてみた。

お茶碗は炊飯器のそばにセット。
お椀や大皿はコンロの横。
コップとかお箸も出しとこう。

でもこんなことは一瞬で終わってしまうわけで...



どうしよう。

ここ数日一人で過ごす時間なんかろくになかったからな...

いつも一人のときって何してたっけ?

何かしてないといろいろ考え込んでしまいそうだ。



...あ、そうだ。

明日の晩御飯のレシピ考えよう。

キッチンの棚からレシピ本を数冊とりだして、ダイニングへ向かう。

昨日何作ったっけ?
肉じゃがか。
一昨日は??
ロイに食欲ないだろうからって消化にいいものにしたんだよな...何だっけ。
雑炊?雑炊か?うどんは無理だと思ったもんね。それは覚えてるから多分雑炊だろう。
ロイの状態もいいみたいだし、揚げものもバンバン食べてたからなー。けっこーがっつりしたのでも大丈夫そうだな。

せっかくだし明日はもっと回復してたらいいな。お風呂に浸からせてあげたいし。

血作った方がいいよね。赤身の魚か肉?肝は私が嫌いだしなー。
二人とも何が食べたいとかあるのかな。それがあったら献立決めるのも楽なのに。

...もーそろそろ仕事終わってるはずなのに連絡遅いな。
何もなければいいけど。
帰ってきたら希望ないか聞いてみよー。



トゥルルル トゥルルル



レシピを閉じたらちょうど携帯が鳴りだした。

急いで携帯のディスプレイに目を向けると、やっぱり電話の主は和真。
そろそろかなーって考えてた予想はばっちり当たった。




「もしもし。」

「なに?」

「え?」

「急に電話くれて、なんかあったん?」

「そっちがかけてきたんでしょ。」

「いやいやかけてへんし。ボケたん?」

「ボケてへんわ。いやね、連絡ないし、まだ仕事終わらないのかと思って気になったから電話してみた。ことにする。」

「終わったでー。今帰ってるとこや。今日のメシなにー?」

「朝言ったとおりから揚げ作ったよ、てんこ盛り。明日のお弁当もから揚げです。」

「お!むっちゃえーやん!朝から恥ずかしいセリフ頑張ってよかったわ!」

「くさいセリフってもっと気障で恥ずかしくなるような愛のこもった感じのやつ期待してたんですけどね。」

「お前、なんもわかっとらんな...
うんこなめんなよ?うんこするから人間も他の動物も生きてられるんや。うんこというものは神聖で不可欠な素晴らしい愛の結晶みたいなもんなんやで?」

「そんな神聖で素晴らしいものをあほみたいに連呼してていいの?」

「あほか。そこがうんこの素晴らしいとこやんけ。それだけすごいもんやのに、こんなに身近なもんなんやで?身近に感じさしてくれるんやで?時には馬鹿にしたようにうんこていう愚か者もおるけどや、そんなあほにもわけ隔てのう接してくれる器のでかいやつなんや。誰しもうんこっちゅー響きに愛着を持ち、その名前がでたら空気も和む!世界のこどもの大好きで思わず言ってしまう言葉BEST1に選ばれるほどの、」

「そんなん知りませんし。」

「なにを!?お前明日にでも保育園か幼稚園行ってこい。行ってちょっとの間でも観察さしてもらってこい。みんな口々に言うとるわ。」

「ねぇ。」

「あ?」

「今一人?」

「そやけど?」

「まわりに人は?」

「よーさんおる。こんな時間まで皆さんも仕事大変やなぁ。お疲れさんやで。」

「そんなうんこうんこ言ってて、周りの人には聞こえてないの?」

「おま!そーやんけ!こんな公衆の面前で何を恥ずかしいこと何度も言わせて熱く語らせとんねん!羞恥プレイか!俺はそんなんされんのすきちゃうぞ!どっちかいうたらす俺がさせたい!」

「うんこって言葉、恥ずかしいものなんだ。その後に言ってることの方が恥ずかしいと思うけど。」

「ほんまひとみはあれやな。」

「どれよ。」

「あれでわかるやろ。」

「わからないです。」

「あー言えばこー言うや。それぐらいわかるようになってー。俺はひとみが言いたいこと、言わんでもわかんのに。」

「じゃー今何思ってると思う?」

「それはあ、や。きょう、ひ、しぶり、ふ、りで、ぶら、した、」

「もしもーしもーしもーし」

「あ?」

「ごめんもー一回。」

「、ま、ま、しゅ、ち、レーか。」

「え?なんて?まま?お母さんがどうしたの?マザコン?」

「そ、なん、うてへ、お、えあ、やろ。」

「ごめん電波悪いんかな、よく聞こえない。」

「、んなん、う、へ、ゆー、ん。」

「え?」

「あかん、こいつほんまのもんのあほになってしもた。」

「ハァ?今のは聞こえましたけど?」

「え?まじで?うそやん。」

「うそ違うわコノヤロー。あ、そう。今日はおかずいらないのね。いっぱいから揚げ作ったのに残念だわ。まあそんなに食べたくないならしょうがないね。」

「おま!なんちゅーことを!俺が結婚を考えたんはうまいメシ食えるからやのに!」

「...ほー。」

「おれの一日の楽しみはメシやねんぞ!?」

「今のが本心ですか。わかりました。」

「あ”...ちょ、ちゃうねん。ひとみちゃんの作ってくれるメシがうまいし楽しみでしゃーないって意味やねん。あほは好きって意味でやしな、言葉のままとらんでや。その奥にある俺の本心に気付いてくれ!」

「もう。今どの辺り?」

「今乗り替えの電車待ち中!」

「あぁはいはい。じゃあ後30分かからないね。」

「おー、すぐ食えるようにスタンバっといてな。」

「うんわかった。お疲れ様。」

「なんかほしーもんとか買って帰るもんあるか?」

「ん?いや、特にないから、何もないならまっすぐ帰っておいで。」

「そんな怒らんでや。デザートとか、なんかいらんの?せっかくやし買って帰るで?」

「怒ってないから。そんなちっさい女ちゃうよ。」

「ならえーんやけど...ほなまっすぐ帰るから!」

「ん、気をつけて帰ってきてね。待ってます。」

「またあとでな。」

「はーい、じゃぁ後でね。」



なんだろ...
電話ってこんなに疲れるものだっけ?
あと30分もしないうちに帰ってくるのか。
なんで一日働いてあんなに元気なんだ。
すごいなあの人は。
長話しちゃった。
普段はけっこー早く切るのに。
もしかして昨日のことまだ気にしてくれたのかな。
ただ声をきいて話すだけで大分エネルギー消費した気がするけど、元気になった気もするから不思議。
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