私の生きる道
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「五郎さん、今日も忙しいんでしょう?」
「そんなことはないですよ。いつも通りです。」
「...お昼、後で届けに行きますからちゃんと召し上がってくださいね。」
「今日は蕎麦を食べたい気分ですから外で食べます。昼は気にしないでください。」
「そうですか...」
「おや、寂しいんですか?」
「そんなことありません。
蕎麦は作って届けられないですもんね。しょうがないです。」
「...一緒に行きましょうか。
いつもの時間に庁の前まで来てください。」
「だから寂しくないですってば。」
「えぇ、わかってますよ。たまには二人で外食もいいでしょう?」
「もう...五郎さんには敵いません。お蕎麦、楽しみにしてますね。」
「じゃ、いってきます。」
「いってらっしゃいませ。」
そう。
そんな傍から見たらオシドリ夫婦でしかないような会話をしたのは今日の明け方の家の前の通り。
相も変わらず仕事の量が多いんでしょうね。
昨日の夜も、帰ってきたのはもう日付が変わろうとしているところだったのに、風呂も入らず水だけ浴びて寝たと思ったら日も明けきらないうちからお仕事へ...
新撰組にいたころ、
お風呂に入って体を清めることが大事だと松本先生(*)に言われて風呂場を増やして入るきまりを作ったら病人も減ったとかで
それが染み付いたのかずっとお風呂には入るようにされてたのにそれもできない日が何日も続いてる...
真実さんめ。
大人しくしてくれてたらいいのに。
そしたら一さんがこんなに忙しくなることもなかったのに。
...あ、そしたら緋村剣心の情報も入ってこなかったのか。
そしたら感謝した方がいいの?
いやいや、でもそれにあの人も巻き込まれそうになってるんだからやっぱりよろしくないじゃない。それに...
あぁぁぁああああ!
もうっ!!
血が落ちない!
洗濯が進まないぃぃぃぃぃぃぃい!
一さんも怪我してないならついでに返り血もかからないように避けてくれたらいいのに!
そうだよ!
真実さんが暴れなかったら一さんが服を血で汚して帰ってくる回数も減るはずなのに!
なかなか落ちない汚れに鬱憤が溜まってくる。
このままじゃ考え事もはかどらず、ドンドン変な方向へ向かってしまう。
よし。
少し生地が傷んでしまったらごめんなさいと先に謝っておきます。
洗濯板が折れませんようにと軽く祈って
洗濯板に服を渾身の力を込めて擦りつける。
これでもかというくらい擦りつける。
お昼に間に合うかな、せっかく一さんが誘ってくれたのに...
洗濯早く終わらせて掃除までしてしまいたかったけど、遅れたくないし、掃除はできるとこまででいいかな。
遅れたら後で何言われるかわからないものね。
*松本先生(松本良順)
将軍・徳川家茂の治療も行っていた奥医師
当時主流だった漢方医ではなく蘭方医で
近藤局長とも親交があったため屯所にも隊士の診療に訪れていた。