私の生きる道
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瞳と茶屋で話し終わってから早々に武田邸へ戻った。
久しぶりに俺の前に姿を現した瞳は相変わらずというのか何というのか...
懐かしい気配が近づいてくると思えば、突然俺の名前を部屋の前で叫んで頭に手を伸ばすこの人は、いつまで俺のことを子ども扱いする。
前と変わらず俺を弟だというこの人に何故か素直に再会の喜びを表すことはできなかったが
旦那ができたというこの人に寂しいというか悔しいというか盗られたというか複雑な撮気持ちになる辺り
御庭番衆が唯一で全てだった俺に
短い期間であれ、その外から新しい世界を教え、御頭としてでなくただの四乃森蒼紫個人に体当たりでぶつかって支えてくれたこの人を...
この人が俺を弟と可愛がるように俺はこの人を姉のように慕っていたのかもしれない。
俺に選択肢を与えてからの屋敷へ戻る道中の瞳はなんとも楽しそうに浮足立っていて、武田邸に残っている四人にも早く会って話したいんだろうことも簡単に見て取れた。
鼻歌交じりに終始笑顔。
変装しているにも関わらず口調が元に戻っていたり、声色も戻って高く澄んだ声で歌を口ずさんだり、聞いてもいない自身のことも話してくれたり…
人のことを弟呼ばわりしてくる癖に、俺よりも抜けているんじゃないのか?
大丈夫なのか?
これで密偵をしているというのだから...
若干心配にもなってくるが
相変わらずのその姿に居心地の良さを感じる。
それにしても、一緒に旅をしたころに比べれば丸くなったような落ち着いたような天然度が増しているような...
それは探し人が見つかったからか?
それとも、どこぞの男の家に入ったからか?
...男のせいで丸くなったというのならば、今瞳は幸せだということなのかもしれん...
ならばそれが一番だし、いっそのことこちら側に足を踏み込まなければいいのにとも思うのが普通だろうに、こちら側の世界に瞳を縛り付けるこいつの上司は普通ではないんだろう。
この旦那も、この人がこの世界に足を突っ込んでいることを知っているのにそのままにしているのか、まったく気付いていないのかもわからんが...
どちらにせよまともであるとは思えない。
瞳の上司といい旦那といい、どんな奴なのか見定めなくては...
この人は幸せであるべきだ。
いつでも笑っていられるように...
今回のことが一段落すれば般若に行かせるか。
あれならすぐに情報も集められるだろう。
会話を楽しみ、そんなことを考えていたら屋敷に着くのもあっという間だった。
伝説の人斬り抜刀斎とやり合うのが楽しみなはずなのに
それが終わればこことも放れてまた瞳とともにいれるのだと
これ以上誇りを汚すことなく皆にも今よりは光射す道を進ませてやれるのだろうと
早く終わってしまえばいいと
そう思ってしまうのは
それだけ俺が疲れていて
それだけ俺が瞳に信頼を寄せていると言うことなのかもしれない。