私の生きる道
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朝の瞳の様子がどこか変だった。
虚ろな瞳になったかと思えば
まるで不安いっぱいの童のような表情になり
自分でも気付いていないのか情けない笑顔を浮かべる...
あんな瞳は初めてだった。
一体何が瞳にそんな顔をさせたのか...
常に笑って俺たちもつられて笑顔になる
本当に俺にとって姉のようで、俺たちにとってあたたかい陽だまりのような存在だった。
そんな瞳のあんな表情に
気にならないわけもなく
心配にならないわけもなく
瞳も少し出かけると言っていたが、急いで帰ろうと思わせるに十分だった。
だが、俺の一存で早く戻れるものでもない...
般若を残していけるのが一番かとも思ったが、今回は変装できる般若を同行させた方がいい...
同行するのは顔の割れてない瞳でもかまわないが、観柳と瞳が同じ空間にいるのは俺が堪えられんし、用事もあるらしいあの状態の瞳を連れて行こうとも思わん。
式尉に瞳のことを言付けて用事を済ませ、できる限り急いで帰って来てみれば......
「あーおーしー!般若さーん!!なんなん遅かったですやーん!!」
馬車の音でも聞きつけたのか、観柳と別れてすぐに喜々とした表情で駆けつけてくる瞳に力が抜けた。
朝の瞳はどこへ行ったんだ?
心配で気が気じゃなかったというのに...
まぁ、無理をしている様子もない。
それで笑えているのなら今の状態が一番なんだが......
ただ、初めて見せたあの辛そうな表情はどうして消すことができたのかが気になった。
この短時間に何があったのか
何があってまたその笑顔ができるようになったのか
何があった?
用事があると言っていたから誰かに会ったのかもしれない
自然な笑顔が戻ったことは喜ばしいことだが
それが自分の知らないところでということを考えると
......なんなんだこの感情は。
悲しいわけではない
寂しいわけでもない
怒りでもない
だがそれに近しい何か......
気に食わん。
瞳が笑顔で話してくれるその横顔を見ながら、よくわからない感情に襲われた。
「...用事とやらは済んだのか?」
「ばっちり任せて!!」
「いつ頃戻ってきたんだ?」
「半刻ほど前かなぁ?暇を持て余しとったら式尉さんに誘われてな、今日の準備運動がてら手合わせしよったんですわ。」
「そうか。」
「『体動かしてスッキリしようぜ』てなんのことやろなぁ?」
「...そうだな。」
「ありがとな?」
「......フンッ」
「ホンマ可愛いやっちゃで♪」
「何か言ったか?」
「なーんも?」
「...式尉はどこにいる?」
「汗でべとべとなったから服着替えてからこっち来る言うてましたわ。今晩のお話ですやろ?」
「あぁ。」
「お手並み拝見やなぁ。」
だが...そうだな。
瞳が笑っていられるならそれでいい。