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ジージージージージー
私を狂わせるひとみの声が止んだと思ったら
今度は、蝉の声が聞こえてきた。
ひとみと散歩している時に聞いたその声は心地のいいものだったのに、
今は耳について仕方ない。
ん?
若干明るくなっているか?
少し赤みを帯びてきている障子の色。
...時計を見て納得した。
いつの間にか朝になっていたのだな...
こちらも夏の日の出は早いのか、まだ5時半過ぎ。
向こうにいたなら第一部隊は作戦も始まっていただろう時間だ。
いかん。
そういえば、借りてきた本まだ一冊も読み終えていない。
早い時間に気が付けてよかった。
読んでしまうか。
そう思い
昨日の夜以降、一切変わっていない机の上から本を手に取り、また柱に背を預けて座る。
パラ
パラ
パラパラ
ページを捲ってみても、全く頭に入ってこない。ただ本に書かれている文字の羅列を、目でなぞっているだけになってしまう...
これでは意味がない。
...
気がつけばこの時間だった。
狂いだしそうになっていた思考はいつの間にか考えることをやめていた。
お陰で涙は止まり、
負へと落ち込んでいく感情の連鎖を止めることはできたが
そのまま頭もその機能をストップさせてしまったかのように働かない。
まいったな...
こんな状態では何も進まないどころか
またひとみに気にさせてしまうかもしれない。
勘違いさせて、悩ませて、悲しませてしまうかもしれない。
辛い思いをさせ、私が彼女の笑顔を奪ってしまうことになるかもしれない。
昨日のように...
そうだな、このままではいかん。
だが、
このままではいかんと考えることができても、それ以上を考えることができん。
また深みにはまっていきそうで...
考えなければならないところまで行きつく前に、思考は躓き、ストップしてしまう。
頭を働かそうとしてすぐ浮かんでくるのは
数時間前のひとみの
私がそうさせてしまった辛そうな声と
違う男に上げさせられていただろう甲高い声
一昨日私の腕の中で涙した姿と
和真の腕の中で感じているだろう勝手な想像での姿。
思い出したくない
考えたくない
今考えるべきことはそれじゃない
そう思っても、頭を働かそうとすれば勝手に浮かんでくる。
だからか、すぐに考えることをやめてしまう。
頭が空っぽになる。
空っぽになっているはずなのに、心が重く感じた。