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私が左腕をひとみの首の下へ伸ばし入れ、腕枕をすると


彼女は左の掌で、私のそれを握る






私が右腕を彼女の体にまわし、彼女の腹に手を添えると


彼女は私の右手に、自分の右手を重ねる






私がそのまま包み込むように優しく抱きしめると


彼女はそれに身を任せ、二人の距離がゼロになる











なぜこうも無防備なのか...

ひとみにとって私はただの家族でしかないのだろうとは思うものの、
違う意味を探してしまう。

普通、父や兄弟といった家族にこんな甘え方はしないだろう?
夫にならするやもしれんが...

そうそこだ。
それで少しでも異性として甘え、求めてくれているのではないかと錯覚してしまいそうになるんだ。

だが異性としてというのなら...
いつもすぐに顔を赤くして照れたり恥ずかしがるひとみのことだ。
異性と意識していたらこんな風に素直に反抗せず体を寄せ、触れ合い、甘えることは絶対といってできんはずだ。

...どれだけ弱っているんだ。

普段とのあまりにもな違いに、色々な意味で動揺してしまう。




手をのばせば絡めてくれる。

腕をまわせば重ねてくれる。

体をよせれば身を任せてくれる。



いかんな。

私が緊張する。



女性と同じ寝具で寝て
こんなに緊張することがあっただろうか。
経験が無いわけではないというのに、おかしなものだ。


相手がひとみというだけでこうも変わる。


そりゃあ神経、研ぎ澄まされるさ。


時々痛みに耐えるように力の入る少し冷えた手。
その時に漏れる吐息。
吐息とともに漏れるのはあえぎにも似た声。
呼吸に合せて微かに上下する胴。
目の前にあるきれいな黒髪からは、畳とはちがった優し気ないい香りがする。
力を入れて抱きしめると折れるんじゃないかと思うほど華奢なのに、触れているところはこんなにも柔らかい。

五感で感じられる全てがあまりに扇情的で、喉がごくりと音を立てる。


...


男とは情けない生き物だな。
それとも私だけで他の男は違うのか?

腹痛に苦しむ愛しい人を見て欲情に駆られるなど...

そうだ。
苦しむひとみの負担を少しでも軽減してやりたい。
反応しているどころではない。
いらん考えは捨ておこう。

まわして当てているだけだった右手で腹を撫ぜてやると、また彼女の体から力が抜くて行くのが伝わってきた。



「あつくない?」



痛みを耐えながらも声を上げたと思ったら、
発せられたのは私への気遣い。

この人は自分の状態がわかっているんだろうか...

私のことなど気にしなくていいのに。
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