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押し入れに向かうと
視界に何やら折られた紙が落ちているのに気がついた。

私はここにこんな紙をおいておいた記憶はない。



...なんだあれは?



よくよく考えてみると思い当たることが一つ。

あそこにはひとみが倒れていた。



そうだ。



私がここでひとみを見つけた時彼女が握りしめていたものだ。

私も半ば無理やりこの人を抱き上げたから、落としてしまったのかもしれんな。

しがみつくかのように、強く大事そうに持っていた。



ひとみの涙にぬれ

強度が落ち

ついた折り目もふやけて

よれよれになってしまった紙



彼女に握りしめられていたそれがなんなのか
少し気になって、手に取り広げて見てみると


そこには

数時間前に気がついた
怒鳴って傷つけてしまうような態度をとった私への、彼女の思い遣りが込められたメッセージと
数時間前に書きたした
私から彼女への感謝と想いを込めたメッセージ


アメストリス語で書かれた最後の一文を見て、愚かな自分を鼻で笑ってしまう。

平仮名で書くことができない想い。
伝える勇気などない。
こんな形でしか書くことができなかった。

彼女の使う文字で書けないというのなら
書く勇気がないというのなら
いっそのこと書かなければよかったのに。

でも書かずにはいられなかった。

believeはこちらの辞書には信じるの意味しか書かれていなかったから、きっと私が言わなければ彼女がこの分の真意に気付くことはないだろう。




 I believe you from bottom of my heart.



 心の底から君を愛している。





ペンで書いてしまったそれを消すことはできないが、滲んでしまっている文字たち。

傷を負っていないか
元の世界へ帰れたのか
姿が見えなくなってしまったのか
ただただ心配し、不安になって涙を流し続けてくれたひとみが
すがった場所は私の使っているこの部屋で
すがったものはこのメッセージの書かれた紙で

滲んでしまった文字と

折れてふやけてよれよれになった紙に

胸が締め付けられ

想いはまた大きく膨らむ



ひとみへの気持ちは留まることを知らんようだ。
困ったな...



広げた手紙を折りたたみ
気持ちよさそうに眠り続けるひとみの枕元にそっとおいてから
押し入れから出した布団を彼女の腹部辺りまでかけた。
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