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「おいしぃ〜♪」

「それはよかった。」



私が作った料理を食べるひとみはいつも以上に美味しそうに食べてくれた。

言葉に出すのはもちろん
前後に何度か頷くように顔をふり
歌でも聞いているかのように体を横に揺らし
満面の笑みで箸を進める。
鼻歌も歌いだしそうだ。

全身で表現してくれるその姿に喜びが増す。

作りがいがあるとはこのことか。
もっと自炊なりして腕を上げておくんだったと今さら思う。
こんな簡単な料理でこんなに喜んでくれるんだから、もっと料理ができたらもっと喜ばせる言葉できたかもしれないし、ひとみに楽をさせてやれたかもしれないのに...


カチャ


食事も終わりに差し掛かった頃
それまで止まることなく料理を口に運んでいたひとみの手が止まった。
その顔からは、つい今しがたまであった笑顔は消えていて、思いつめた表情だ。
どうしたというんだ?



「なにか苦手なものでもあったかい?」

「んーん、そういうわけじゃないの。そういうわけじゃなくて...」

「うん?」

「あのね、今日は本当にありがとう。」

「礼をされるようなことをした覚えはないよ?」



思いつめたような真面目な表情をするから、なにか問題があったのかと思ったら、予想外にも礼を言われる。
どうしたというのか...



「毎月あるものだって言っても、あんなに弱っちゃったの久しぶりだったんだけど、ロイのおかげですごく心が落ち着いたの。安心できた。
血みどろのロイ見つけて一緒に過ごすようになってからまだ四日しかたってないのに、こんなにロイの存在に支えられてるんだって気付かされた。こんなに安心して信頼できる人はいないわ。それこそお父さんレベル。」

「それはこちらの台詞だよ。しかし...やはり父親みたい、か...」

「違う違う。私の中で安心して信頼できる一番の存在は父さんなの。それに並んでるって意味。会ってまだ4日なのによ?」

「っ!!」

「自分でも驚いちゃった。もちろん早く帰れるようにって願ってるし手伝いたいと思ってるけど......ヘヘ、やっぱなんでもない。
それにね、ロイのおかげでこんな美味しいご飯食べられたよ?ロイの手料理食べられるなんて思ってなかったからすごく嬉しいの。」



前にも同じようなことを言ってくれていた。
兄弟のようで、父みたいだと。
それだけひとみの中で大きな存在に慣れているということはとても嬉しかったが、所詮は家族なんだと言われているようで辛くもあった。

それがどうだ。

『父親みたい』から、家族ではなく『一番の存在である父に並ぶ』に変わっているではないか。
それをこんなに頬をほころばせて言ってくれるんだから
息が...心臓が止まったかと思った。
家族でもない、婚約者でもない私が、まるで一番ひとみの心のそばにいれているのではないかなどと馬鹿な勘違いをしそうになる。



「今日の夕食も私がつくろうか?」

「んーん、一回で十分。ロイはロイのしなきゃいけないことがあるでしょ?」

「私も君のために何かしたいんだよ。支えたいんだ。」

「もう十分支えられてるし、甘えてる。じゃなきゃ...じゃなきゃ、その、人間湯たんぽとか、いくら寝ぼけててもお願いしないもの...
その節はずうずうしいお願いを聞いていただきまして...」

「いや、あれは私としても美味しかったというか、ありがたかったからね。何度も言うがもっと甘えて頼ってくれていいんだよ?」

「でも...」

「ハハハ、このやり取り、私たちは何度繰り返すんだろうね。お互い折れないというか頑固と言うか。」

「ヘヘ、そうだね。じゃあ...じゃあ、ずうずうしいお願い、なんですが、もう一つだけしてもいいですか?」

「一つどころかいくらでも。」
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