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「大好きなの...

子どもにはみんな
子どもらしく育ってほしい
いつも無邪気に笑っていてほしい

でも...

前に散歩に行った時、戦争は遠い話だけど問題はたくさんあるってはなししたでしょう?」



「あぁ、してくれたね。」

「遠い話じゃない人もたくさんいるの。」

「どういうことだい?」



ずっと繋いだままだった手をひとみはゆるりと解いて
ソファーに置いてあるクッションに手をのばし、握りしめていた。



「前に聞いてもらった問題は、
私の身の回りのいくつかの問題だけでこの世界全ての問題じゃないの...

今この世界の人口は推計70億だって言われてるんだけどね

一年に
6000万人が亡くなって
1億3000万人が生まれるって言われてるの

5歳の誕生日を迎えられず命を失う子どもたちは
810万人
その中でも栄養不良が関係する原因で命を落とす子は
560万人にもなるの

ロイ、ここに来てから食事にはそんなに不自由してないでしょう?」



「あぁ...
どこの国にも格差や問題はあるだろうとは思うが、そんな問題は微塵も感じなかった...」



「災害とか紛争が原因で避難生活を強いられてる子どもたちは
1810万人
小学校に通えない子どもたちは
1億100万人

小学校に通うどころか、中には無理やり連れていかれて
少年兵として人殺しを強要されて、敵だけでなく家族や友人を自らの手で殺さなければならない状況に追い込まれてる男の子や
性処理の道具として、物みたいな扱いをされる女の子
薬漬けにされて、いらなくなったら捨てられるんじゃなくて簡単に命を奪われる子たちがたくさんいるの


この国の中でも格差はあるけど
この世界の中での格差はもっとひどい


私はこの国で今まで生きてきて

住むことにも食べることにも困らなかったし
命を脅かされる脅威に震えることもなかった

友だちとバカみたいに遊んで
時には殴り合いのやんちゃなケンカもして
周りよりちょっと遅い初恋に四苦八苦しつつも楽しんで
家族仲良く過ごしてた

血なんか見ない
死体なんか見たことない
銃声なんか聞かない
悲痛な叫びを聞いたことない

そんな毎日...

襲われることとか、奪われることを恐れて眠れなかったことなんてないの
国の兵士にからまれてる友達を助けようとして殺されるなんて考えたこともない
ましてや大好きな人が殺されるなんて…


でもさ、
今この時間にも
そんな私には想像しえないような状況を強いられながら生きてる人たちがいるのよね

同い年の人も
もっともっと幼い子も...


今もこの世界のどこかで
同じ人間同士が傷つけあって搾取しあってる
苦しい状況で生きて、殺されてるんだって...


世界に格差があるって言ったでしょ?

豊かな国が問題解決するために頑張ったらいいじゃないって思うじゃない?

でも、他人事なのよね
他人事どころか、その問題を食い物にしてる国もたくさんある

貧しくても資源がある国が相手なら
そこから資源を手に入れるために
実際に取引される値段の何分の一で売らせるし
簡単に武器だって売る
戦争だってする

利益しか考えないの

自分の利益にならないなら見て見ぬふりだって平気
だから色んな問題や情報があっても公にでてこない

そのお陰で
私も
そんな問題知らずに生きてこれてしまった...

温室みたいなところでぬくぬくと育ってきてたし
そんな問題知ってから
私も誰かが殺される手伝いをしてしまってるんだって...
まだまだ知らないことたくさんあるんだろうって
そんなこと考えだして
頭がおかしくなりそうだった

いつもしわ寄せがいくのは弱者で、子どもたちで
子どもたちの笑顔、奪ってしまってるんだって
笑顔どころか命まで奪ってしまってるかもしれないんだって...」




ひとみの口から紡ぎだされる真実に頭を鈍器で殴られたような、心臓を握り潰されたような気になった...
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