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和室に続く襖を足で開け、敷いたままの布団の上にひとみを横たわらせた。
「ありがとう」と改めて微笑んで伝えてくれるひとみは、どれほど私の心をあたたかく包み込んでくれることか...
「どこいくの?」
頭を一撫でし、掛け布団をとりにいこうと立ち上がってリビングに向かおうとすると、背後から心細気な声が聞こえてきた。
彼女の表情は笑ってはいるものの、その瞳は揺れていて、まだ不安を感じさせてしまっているのかもしれないと思うと体が大きく脈打つ。
それだけ思ってもらえることに嬉しさを感じるが、自分の意志に関係なくいずれ元の世界へ帰される現実に心配と寂しさが襲った。
「大丈夫、布団をとりに行くだけだから。ひとみから見えないところには行かないさ。」
笑顔を繕ってそう伝えると、
「ごめん、なんか私ほんと、子どもみたい......」
と顔を枕に埋めて足をバタバタさせるから、また笑みがこぼれる。
急いで布団をとって戻り体にかけてやると、バタついていた足も止まるから、またも笑みがこぼれる。
...この人は私を笑顔にさせる天才かもしれない。
髪を撫でると伏せていた顔を上げ、照れたようにはにかむ。
離れたくないのは私の方だ。
そばにいたいのは私の方だ。
触れている髪を手にとり口付けた。
「だぁぁぁぁぁあああ!!」
とたんに耳元に響く声に目が白黒する。
せっかく横になって布団も着たというのに起き上がってしまい、薄い布団を胸元辺りまで引き上げる仕草をする彼女の髪が私の掌からあっという間に姿を消し、たったそれだけのことなのに何故か胸が締め付けられた。
この人も簡単に、一瞬にして私の前から姿を消してしまうときが来るんだろう...
「ロイ、あのね、私ね、これでも女なの。」
真実を打ち明けるかのように今更なことを伝えてくれるひとみにハテナが飛ぶ。
いっそのことひとみが男なら...
女でなければこんな感情持たなかっただろうにと、あり得ないこと考えてしまじゃないか。
「それがどうかしたのか?」
「あのね、ロイには色気があるの。上目遣いも、今みたいに髪にちゅ、ちゅーするのも、好きな人意外にしちゃダメだよ。」
まさか先手を打たれるとは思わなかった。
いや、先手というか、ひとみにそう言われるとは思わなかった。
それに...
またも彼女の口から紡がれる『好きな人』という言葉に体が固まる。
好きな人にしかしてはならないというのなら、なんら私は間違ったことをしていない。
私が好きなのは目の前にいる貴女なのだから。
鈍感で気付かずにいてくれることはある意味救いなのかもしれないが...
拳に力が入る。
「好きな人にならいいのか?」
「ロイが好きになった人なら皆認めてくれるわ。そうじゃないのにこんなことされてるのバレたら、私ロイのファンに刺される......」
「......は??」
気付けば口に出していた問いへの答えに意味がわからず情けない声を出してしまった。
ひとみは今何と...?
何を恐れているんだ?
心配するところはそこなのか?
顔を染めたまま布団を握りしめて注意を続けるひとみから目がそらせない。