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目が覚めると、藺草の優しい匂いとここ数日で嗅ぎなれたものになってしまったロイの香りに包まれて、心が落ち着く。

部屋はいつの間にか薄暗くなっていて、障子から入る日の光も僅かなものになっていた。


......


今何時だろ?


のそっと起き上って周りを見渡すと
すぐ近くの柱にもたれて
膝から畳にずり落ちてしまったらしい読みかけの本に手をかけたまま
静かに寝入ってるロイが目に入った。

静かにロイのとこまで移動して
息を潜めるとスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。

そんなところで器用に寝ちゃって...
いくら夏とはいえ冷房付けてるんだから薄着のまま寝たら風邪ひいちゃうよ...

寝るなら布団で寝たら...って、布団は私に譲ってくれてたんだもんね。
こんな恰好で寝たら体も休めないだろうに...
優しいんだから。

よく寝れてるのに起すのは可哀そうだし、布団かけたげよう。

布団を持って静かにロイの隣まで移動した。





可愛い寝顔...

ちょっと待って何これ!!

まつ毛なっが!!

肌きれい!!

数日前まで戦場にいたなんて嘘みたい...

顔整ってるなー...

気の抜けた顔

かわいぃ...

なのに綺麗...

男の人なのにずるい!!



......


......



そうだよ

ロイ、男の人なんだよね...

忘れてたわけじゃないけど...









そう

忘れてたわけじゃないんだけど、寝る前の会話を思い出して複雑な気持ちになる。



ロイもそーゆー気持ちになるよね。
男の人だもん。
まだまだ23歳...若いんだから、性欲なかったらおかしいもんね。
なかったら逆に心配だよね。

この大きくて厚い掌で女の人に触れて、抱くことだって当たり前にあるはずだしあったはず。

それがリザさんっていう私も知ってるステキすぎる女性が相手かと考えてしまえば、なんだか胸がざわついてきた。
リザさんじゃない、知らない人なら勝手に想像もしないで済んだのかもしれないのに...

頭に浮かんでくる二人の姿を振り払いたくて、頭を左右に思いっきり振ってみると、頭がふらふらして貧血気味なのを思い出す。
今ほど生理中でよかったと思うことはないかもしれない...




ロイにもう一度目をやると、相変わらず静かに眠ってる。




気がつけばいつの間にか当たり前のようにロイの腕の中にいることが多くなった。

ロイに男性を意識することがなかったわけじゃない。

だってこんなにかっこよくて、男らしくて、逞しくて、優しくて、色気があって...
私赤面症だっけ?ってくらいよく顔赤くなってる気がするもの。
からかって楽しんでるのかって思うこともあるぐらい。



話を知っていた大好きで尊敬してるロイが目の前に表れて、そのロイはイシュバール殲滅戦真っ只中から来たらしくて...
心も体も傷ついてるロイに少しでも笑ってほしくて、少しでも幸せを感じてほしくて...

そんな気持ちから始まったのは確かだけど、今はそれだけじゃない。

私を安心させるために触れてくれる手や抱きしめてくれる腕や心強い力はどれほど私の弱い心を支えてくれただろう...

気がつけば無条件で安心できるところになってしまっていた。


......どうしてそんなに?


どうしてこの人の隣はあんなに心地いいんだろう...

どうしてこの人の腕の中はあんなに落ち着くんだろう...

どうして会って間もないこの人にあんなに甘えられるんだろう...

どうして恋人でもないこの人に一緒に寝てもらったり抱きついたりをしたりされたりできるんだろう...

どうしてこんなにも心をゆるして依存してしまっているんだろう...



考えだしたら、答えの出ない疑問が止まることを知らず次々と浮かんでくる。



だめだな、考えだしたらきりないや。

丁度いいことにロイも気持ちよさそうに寝てくれてるし、ちょっと夕飯の支度でもしてこようかな。

起きませんようにと、できるだけ衝撃をかけないように布団をかけて台所に向かった。
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