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「もしもし?もしもーし。」
「お疲れ様。もう仕事終われたの?」
「いやいや、そういう意味じゃなくて。いつもより早いなと思っただけ。」
うむ。
あれだな。
和真はもしかしたらとても勘が鋭いのかもしれない。
泣きながら器用に笑うひとみを抱きしめていたんだ。
私の腕の中で落ち着きを取り戻していくひとみに、波立っていた自分の心も静かになっていくのを感じた。
ひとみは、私にとって安定剤でもあるようだ。
募る愛しさにしばらく腕に込める力を緩められずにいると、それを邪魔するかのように隣の部屋から電話の音が鳴り響いた。
「ごめんね」とはにかみながら私の腕の中からすり抜けて電話に出るひとみを見れば、その相手が和真だろうことは彼女を見れば一目瞭然...
湧き上がってくる淀んだ感情を抑え込もうと、読んでいる最中だった周りに散らばる本に手をのばした。
電話を盗み聞くのも気が引けるし、どろどろしたものが込み上げてくるから広げた本に集中しようとするも、
やはり好いた女性がその恋人と話しているとなれば尚更無意識にも集中してしまうものらしく、
静かな部屋に響くひとみの声だけが私を刺激して、本に向けた目はただ文字の羅列をなぞるだけになっていた。
「今会社出たとこなの?じゃあまだ1時間はかかるね...気をつけて帰ってきてね。」
「ん?調子??大丈夫よー薬も聞いてるみたいで。」
「うん、だから買ってこなくて大丈夫。手の込んだものは作れなかったけど、もうご飯もあっため直して盛るだけだからまた駅着いたら連絡ちょうだい?」
「今日は久しぶりのあっさり三食丼〜。気遣ってくれてありがとうね。」
「うん、じゃあ連絡待ってます。お疲れ様。」
......私は耳までどうかしてしまったのか。
聞き間違い、か?
ご飯の用意がどうとか言ってなかったか?
リビングで電話を終えたらしいひとみのいるだろうところから聞こえてきたカチャカチャという何かが当たる音に嫌な予感がして、急いで彼女の後を追った。
「あ!ねぇロイ、けっこーしっかり寝れた?」
「......」
「ご飯すぐできるんだけど、寝起きに食べれそう?」
私の顔を見るや否や満面の笑みで声をかけてくれるひとみは、台所で何やら作業をし始めていた。
「ロイさん?」
「......君という人は...」
「え、なに?どうしたの?」
「少しここに座ってくれるかな。」
「え?盛りながらじゃダメな感じ?大事な話?」
キョトンとした顔をしながら手を洗ってタオルで拭くと、今度はやはりまだ赤いままの目で微笑んで私の前にあるソファーまで来てくれる。
先に座るように促がし、ひとみが座ったのを確認してからその目の前に跪いてひとみの手をとった。