いつまでも夢に溺れていれたなら
□「はい先生。火の強さはどうしますか?」
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「ひとみ、君に折り入って頼みたいことがあるのだが...」
「ロイが私に!?珍しい!!」
「迷惑なら断わってくれてもかまわない。」
「迷惑なんて!ロイが私に何か頼ってくれるなんてって嬉しいぐらいなのに!私にできることならなんでもカモン!!」
そんなやり取りから始まったのは、ある日の朝のこと。
今日から数日は、世間一般で言われる盆休みというものらしい。
図書館も休みなんだと。
...できることが限られてしまう。
昨日も7冊、限界まで借りてきたが、それも朝を待たずして読み切ってしまった。
後は調べるといってもPCを使ってとかになってしまうのか。
たいして進められない。
そしてだ。
図書館は休みらしいのに、
和真は仕事らしい。
うむ。
これは絶好の機会かもしれん。
前々から思っていたんだ。
この世界の料理がうまいのか
ひとみが作る料理がうまいのか
そのどちらもかもしれないが、
とにかく私の胃袋はがっちり掴まれてしまったわけだ。
ひとみを連れて帰りたくも、それはできん。
料理の上手すぎるこの人を
優しく温かい陽だまりのようなこの人を
光りのように導いてくれるこの人を
愛しくてしょうがないこの人を
連れて帰ることはできんのだ。
ならばせめて...
せめてアメストリスに戻った時、ひとみの作る味だけでも感じれるように、彼女に料理を教えてもらおうと。
そして冒頭の会話に至ったわけだ。
「それで、頼みって何??」
「料理を教えてほしいんだ。」
「料理?」
「あぁ、こちらに来て初めて口にした、君が作ってくれた和食は今まで生きて食べてきた中で、何よりも美味しかった。」
「やだもー、そんなお世辞言って褒めたって大したことしてあげられないよ?」
「世辞ではない。本当にうまかったんだ。私の世界の料理を否定するわけじゃないがね。
料理にあんな癒しの効果があるのかと驚かされたほどだ。」
「...ありがとう。そんなに喜んでもらえてたなんて、嬉しいです。」
顔を少し赤く染め
目をそらして礼を言う
ひとみの照れたようなその表情に
脈は速くなり
目を奪われる
クソッ
かわいいな。
「...それでだ、アメストリスに戻ってからも、君が作ってくれた料理と同じようなものが食べられるように、作り方を教えてほしくてだな。頼めるだろうか?」
「...え、そんなことでいいの?」
「私には死活問題なんだ。」
「おおげさだなぁ。でもそれぐらいなら私にもできるから喜んで!」