いつまでも夢に溺れていれたなら

□「何をそんなに怒ってるの?」
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『ちょっと聞いてほしいことがあるの』





珍しく改まった態度でそー言って俺を誘うひとみの待つ喫茶店に、仕事が終わってから急いで向かった。

いつもならどっちかの部屋で会うってぇのに、待ち合わせ場所に喫茶店をわざわざ指定してくるからまた珍しい。


なんかあったんか?

なんかの記念日でもないはずだよな。

いまさら愛の告白でもないだろうしなぁ。

怒らせるようなことしたっけか?

まさか...別れ話...とか??

いやないない。

付き合ってまだ3ヵ月。
いい感じで安定してきたとこなんだ、別れ話はねぇだろう。

いやまてよ。
3ヶ月目とか3年目ってやばいっていわねーか?


...


普段ないことだから、変に勘ぐって緊張しちまう。
いつもなら花でも買っていくかってなるところなんだが、
なにせ早くスッキリさせたくて、寄り道もせず進む足も自然と速まっていった。





カランカラン


「いらっしゃいませーおひとり様ですか?」





店に入ると笑顔で対応してくる店員に先に連れが来てるはずだと伝えて、店内を見回すと俺の目は一点で釘付けになった。



「どうしたんだ?急に。」

視線の先にいたひとみのところまで歩き、向かいの椅子に腰かけて本題に入ろうと声をかける。

せっかく仕事も早く終わらせて来れたんだ。
早くスッキリさせて二人の時間を楽しみたい。



「お疲れ様。着替えて来なかったの?」

「あんな呼び出し方されたら気になっちまってさ。終わってから急いで来たんだが、待たせちまったか?」

「んーん、全然。もっと遅くなると思ってたから。急いでくれてありがとう。」

「事件も残業もなくて助かったよ。」

「他の皆さんは残業あるの?」

「どーだろうな。大佐も昼間サボって行方くらましてたし中尉も忙しそうにしてたから、二人はまだ仕事してるんじゃないか?」

「そっか、大佐に悪いことしちゃったな...」

「何かあったのか?」

「んーん、何も?しいて言うなら、今日はジャンに居残りさせないでねってお願いしたくらい。」

「んん?大佐と仲良かったっけ?」

「あぁ...あの...普段よく仕事頼まれるから。」

「...そっか。そーゆーひとみは仕事終わるの早かったのか?」

「言ってなかったっけ?今日は私非番。」



だからか。
と内心納得した。

今日のひとみはいつもと違う。

ドレスアップとまではいかなくとも落ち着いたセミフォーマルなワンピースを着てる。
落ち着いてた色なのに胸元が少し開いてるから、上品さだけじゃなく女の色気も感じさせる。

仕事中は軍服。
普段会うときも、お互い仕事で忙しいから家でまったりと過ごすことが多くて楽な服が多い。
そりゃ店の入り口で見かけたとき目も釘付けになるわな。



でも納得できないことも一つ。

仕事をよく頼まれてるのは知ってる。
気にはなっていた。
でもそれだけで、そんなこと頼めるような間柄になるもんか?
そんな会話ができるくらい仲良くなれるもんか?

過去に何度も大佐を好きになっただのといった理由で元カノに振られてるから
もしかしたらって嫌な可能性が頭をかすめる。

『今日はジャンに居残りさせないでってお願い』?
『今日は私非番』?

いつ大佐に頼んだんだ?
今日そんないつもと違う恰好をしてるのにもなんか関係があるのか?



せっかくひとみに会えたっつーのに
心ん中はドロドロした気持ちが拡がってく。



いつもと違った服で髪をあげているおかげで、普段はつけてるところを見ないネックレスが胸元に煌めいて見えた。

いつもと違う

ただそれだけのところにひとつひとつ気になって、また質問を投げかける。



「...珍しいな。」

「なにが?」

「その服も、そのネックレスも。」

「変かな?」

「いや、似合ってるよ。」

「よかった。」

「そのネックレス、初めてみた。」

「あぁ、もらい物なんだけどね、デザインが凝ってるのにゴテゴテしてないし、すごく気に入ってるの。」

「へー。確かに。」



褒めると嬉しそうに笑うひとみ。
いつもならその笑顔を見たらこっちもつられて笑っちまうのに笑えない。

大事そうにネックレスをその指でなぞって手に取り、指で確かめてる。
その姿に、さっきから湧き出てるドロドロしたものが心を満たしていく。



「...それくれた人、いいセンスしてるな。ひとみのおふくろさん?」

「んーん、母さんじゃないよ。」

「じゃあ誰だ...。」

「気になるの?」

「まぁ少しな。」

「...。」

「どした?」

「元カレ。」

「...へ?」

「けっこー前に付き合ってた元カレがくれたやつ。」

「...」

「聞いてほしいことがあるって言ったよね?」
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