いつまでも夢に溺れていれたなら
□「...おっとあんなところに軍用車が。」
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「おうおうひとみじゃねぇか!!ってひとみだよな??」
急にかけられた声に、なんでこんな日に限ってと思った。
一番聞きたくて聞きたくなかった声。
一番会いたくて会いたくなかった人。
マース・ヒューズ
なんでよりにもよってこんな時に会うかなぁ...
いや、そりゃ会えるものなら会いたかったよ?
だって弱ってたもの。
体が弱るとどうしてこんなに心も弱くなるのかってくらい寂しくて寂しくて、大好きな人に会いたいと思った。
まぁ大好きってももう結婚してる人だから気持ちを伝えられるはずもないんだけどさ。
しかもその奥さんもリンゴの擦りおろしとか差し入れてくれちゃう素敵な人で大好きな人でもあるんだけど。どんだけ助けられてるか...
風邪こじらせて熱も長引けば鼻もずるずるで咳もすごくて、お医者さんに風呂に入るなって言われてるから入らずに布団に籠って汗をあり得ないぐらい出し続けて、食欲も無いし喉も痛いから何も食べられない日が続いて
やっと微熱まで治まってきたから果物でも買おうかと市場に出てみたら目が回るのなんの。
もうだいぶマシになったし、関節も痛くないし、歩けるからもういけるかと思ったのに現実はそんなにあまくなかった。
果物屋さんまで何とかたどり着いてリンゴを3つ買ったものの、目が回るから立ち止まってバランスをとっていると聞こえたのがさっきの声。
私の大好きな人の声。
声が聞こえたと思ったら、今度は急に目の前に現れたのは彼の顔と掌。
『ひとみだよな??』
ってなに?どゆこと?
私のこと忘れちゃったの?
ずっと仕事忙しそうだったもんね。
なんて拗ねそうになってハッとした。
そうだよ。
だって今の私の恰好は部屋着に軽く上着を羽織ってて、お風呂に入ってないから汚れた髪は一つにまとめてるし、もちろん素っぴんでマスクもしてる。
そりゃ声かけてみても間違えてないか不安になるよね。
いつもはマースに会うときは気合い入れてるもん。
見つけて声かけてくれたことに嬉しさを感じるけど
こんな今のボロボロな状態見られたくなかった。
「やっぱりひとみだ。お前返事ぐらいしろよー!それとも返事できないくらいしんどいのか?お前風邪ひいて寝込んでるんじゃなかったのか?」
「症状落ち着いたから買い物に。」
「おいおい大丈夫なのかよ。声見事に枯れてんじゃねぇか。」
「大丈夫だから買い物きてんの。」
「ならいいんだけどよ。もう買い物終わったんか?」
「うん。」
「じゃあ帰るか。」
「ちょっ、何してんの。」
「あ?」
「それ、私の荷物。」
「帰る方向同じなんだ。これぐらい持たせとけって。」
当たり前のように優しさを向けてくれるマース。
私はこの人にとって近所に住む女の子でしかないんだろうってのはわかってるんだけど
だからこそこんなことやめてほしい。
嬉しいじゃない。
諦められないじゃない。
優しくしないでよ。
そうは思っても、それを伝えられない私は一体何がしたいのか。
マースもグレイシアさんも好き。
二人の幸せを邪魔したくない。
でも、心が痛い。