いつまでも夢に溺れていれたなら

□「よし。その誘い、乗ろうじゃないか。」
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シャァァァァァ




「ひとみ、少し痩せたんじゃないか?」

「ほんと?...それ、喜んじゃだめよね?」

「まぁ...健康的ではなさそうだな。」

「だよねー。痩せたかったけど、これやつれてる感じだもんね...」




シャワーを浴びている彼女に
湯船から声をかけた。

ちょっと前のひとみなら、痩せたって言ったら大喜びしていただろう姿が簡単に思い浮かぶのに、このローテンション。

1か月前まであんなに「ダイエット」と連呼していたのに、ここ最近一気に痩せてしまってる。

シャワーを流しながらくるくる回って自分の体を鏡でまじまじと観察している姿は見ていて面白いが、そろそろ私の存在を思い出してくれてもいいんじゃないかと思う。



「うわー肋骨浮きまくってますよこれどうしよう。おなかペッタンコになれたのは嬉しいんだけどなー。でもペッタンコになったように見えて、腰回りもお尻も太腿もそんなに細くなってない気がするっていうか、ハリが足りないっていうか、全体的に筋肉が足りない?」

「ひとみは理想が高すぎるんじゃないか?」

「そんなこと無いと思うけどなー。好きな人の前ではよりきれいでいたいじゃない?それに綺麗になれたら自分にも自信が持てるし。わずかでもね。自分で見て、自分で『お、いいね!』て思える体になりたいんだけど...」



ちょっと待て。
うん、待とうか。
今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのだが...

シャワーを止め、同じく湯船に入ってくるひとみは、私と向き合う形で静かに座った。



「その好きな人というのは私ではないのかね?」

「へ?なんで?」

「私がいくら『今のままで十分魅力的だ』とか『綺麗だ』といっても、ダイエットをやめようとはしなかったからな。」

「あぁ、だから言ったじゃない。自分でイイって思える自分になりたいって。
ロイだって、もし筋肉落ちておなかが出てきてプヨプヨのタプタプになったときに私が『そのお腹でもすごく素敵!魅力的!抱かれたい!』って言ったとしても、自分のプライドが自分のお腹を許さないでしょ?」

「...まぁ、そう...か。」

「それと一緒。それに、好きでもない人とお風呂に入れたりできるような安い女じゃないので。」

「それもそうだな。悪かった。それで、どうして好きな人からそんな離れたところに入ってるんだい?」



そう。向かい合って座っている。
返事を聞いて納得し、安心したものの、私から少しでも離れたところにと入っていることに疑問が浮かんだ。

湯船だってそこまで広くはないが
あえて私の対角に場所をとり
足を抱え込むように小さく三角座りをしている。
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