いつまでも夢に溺れていれたなら

□「むねきゅんとは一体?」
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「どうしたんだい?」

「んー?どうもしないっちゃどうもしないー。」

「...見てて楽しいかい?」

「うん!至福の胸キュンタイム!」

「...むねきゅん??」






朝目を覚まし、ひとみの声に和室から出ていつものように洗面所に向かった。

歯を磨き、顔を洗うと伸びてきた髭が目にとまった。

...ふむ。
これはさすがに見苦しい。
身を正して心も引き締めなければ...
ひとみに無精髭の生えた姿も見せたくないしな。

ひとみに髭を剃りたいのだがと声をかけると、また予備の剃刀を出してくれた。

歯ブラシといい下着といい、よく予備をそろえているんだな...
剃刀を出されたときにボソッとそう言ってみれば「備えあれば憂いなしっていうからね!なんでも、なくて困るより、準備ができるならしておきたくない?安心できるし、今回みたいに何かあった時も対応しやすいもの。」なんて笑いながら言うから、私の右腕になってくれたらいいのに...なんてふと考えてしまった。

「これ、和真は使わないから」とわたされたシェービング用の泡を口周り、頬、顎とそこから首にかけてにつけ髭を剃り始めた。

切れ味がいい。

気持ちがいいぐらいよく剃れる。

そう思いながら剃っていると、熱い視線に気がついた。



そう、もちろんひとみだ。



台所で作業しているところを呼んで中断させてしまったからまたすぐ戻るんだろうと考えていたら
はにかむように照れるように微笑みながら私の斜め後ろに立ち、ずっと見ているではないか...

そんな可愛い顔でそんなに見つめられてしまうと手元が狂ってしまいそうなんだが...

髭がなくなるのがそんなに嬉しいのか?
髭はやはり見苦しかったのか...
やはり気を配ることを忘れてはいかんな。
剃刀も私用にと出してくれたんだ。
身だしなみも整えていこう。

早く剃ってしまうかと頬の髭を剃り、顎を上げて首にかけて剃ろうとすれば、またもひとみが「くぅー!」なんて漏らしつつなんとも言えないような嬉しそうな表情を浮かべたから、思わず「どうしたんだい?」と聞いてしまい、冒頭の会話に至ったわけだ。



まぁ、見て楽しんでもらえるならそれに越したことはない。
不快な気分にさせていたわけではないのかと安心もした。

が、

むねきゅん?

むねきゅんとはなんだね?

こちらの世界に来てたびたび思い知らされる。
勉学や研究に励み、国家錬金術師の資格を手に入れはしたが、まだまだ知らないことが多すぎることに...
まだまだ精進しなければな。



「むねきゅんとは一体?」

「なに急に。そんな言葉聞いてくるなんて珍しいね。TVかPCで見たの?」

「いや...今君が『至福のむねきゅんタイム』と。至福はとても幸せだと言うことで、タイムは時間のことだろう?残りのむねきゅんとやらがわからなくてね。」

「やだ!私そんなこと言ってた!?恥ずかしー!!」

「恥ずかしいことなのかい?」

「いや、多分恥ずかしいことじゃないけど、いくら興奮したとはいえさすがにさ、」

「興奮?何に?」

「う、あ、や、さ?」

「うん?」

「ロイ、異性の好きな仕草ってある?」

「突然だな。まぁあるにはあるが...」



恥じらうその姿が可愛らしい。
無意識だったのか、どれだけ動揺しているのか、自分が言ったことも忘れてどもる姿に胸が疼く。

『むねきゅん』とは恥ずかしく興奮するようなものなのか?
...いかんな、頭の中が変な方向に向かってしまいそうだ。
異性の好きな仕草、あるにはあるが、そんなものに関係なく君の仕草や行動にはいつも惹きつけられているんだよ?
当の本人は無自覚で気付いてもいないだろうが...



「そーゆー好きな仕草をしてるのを見たときに、胸が甘く締め付けられるっていうか、苦しくなるっていうか、疼くっていうか、メロメロになるときない?」

「あるな。」

「それが胸キュンです。」

「なるほど。」



つまり私は今だけでなくいつもひとみに胸キュンしていることになるのか...
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