いつまでも夢に溺れていれたなら

□「なぁ、せめて手の届くところに来てくれないか?」
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「..........ジャ...ン??」






「ひとみ、か?」











駅の近くの店で買い物してると、
列車が着たみたいで人がたくさん降りてきてた。

こんなにこの駅で人が降りてくるのはちょっと珍しい...

人ごみが苦手だから、店のおばさんにお願いして店の中に避難させてもらって落ち着くのを待った。

人の波もあっという間になくなったから、「ありがとうおばさん、じゃあついでにこれももらおうかな!」なんて笑って買い物を終わらせて帰路につこうとしたら、もう人がいないと思っていた駅の方からなんだか聞きなれた声が聞こえたような気がして駅の方を振り返ってみたら、
雑貨屋のおばさんと
駅員さんたちと
その人たちより低い位置にここにはいないはずの人の横顔が見えた。

ずっとずっと
忘れたくて
忘れたくなくて
忘れられなかった
今でも愛しい人

見間違えるはずもないあの横顔を見て
気がつけばその人の名を口に出してたら

小さな小さな私の声が耳に入ったらしいその人も私に気がついたみたいで
こっちを向いて名前を呼んでくれた。

忘れてなかったんだ
覚えてくれてたんだ
たったそれだけのことなのに、なんだか嬉しかった。

ジャンは駅員さんにお礼を言って
雑貨屋のおばさん...自分のお母さんに先に帰るように伝えて
ゆっくりこっちに来てくれた。



「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「もちろん。見てわかるでしょ?」

「あぁ、安心した。こんなとこで何してんだ?」

「買い物してた。ジャンこそこんなとこで何してるの?中央行ったんでしょ?お休みもらったの?」

「まぁそんなようなもんだ。」



笑顔を作って話してる私の質問に答えるときに、ジャンの笑顔は苦笑いに変わった。

濁したようなジャンの返事に、なんだか嫌な予感が心を満たしていく。

仕事大好きなこの人が
デートすっぽかしてでも仕事に精を出すようなこの人が
迷いのない目で中央に行くからと私に別れを告げたこの人が

苦笑いで
目も背けて
返事もはっきりしたものじゃなくて......



「なんで、車いすに乗ってるの?」



思わず口から出た言葉たちを、私は止めることができなかった。



「あぁ、ちょっと作戦中にやられちまって。」

「怪我?」

「あぁ。」

「痛い?お母さん返しちゃって大丈夫なの?」

「大丈夫だ、痛くない。」

「そう......怪我が治ったらまた中央に?」

「......」

「......ジャン?」

「ん?」

「んーん、なんでもない。」



目を伏せて返事をしなくなったジャンの名前を呼ぶんでも、
顔を上げないで力が抜けた、ただ文字を発するだけのこの人に、
同じ質問を聞き返すことがなんだかできなかった。
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