朝なんかこなくていいのに

□「でももう身分は撤廃されたじゃない?」
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机に向かう仕事なんぞ何故俺がしなければならんのか。
それなら第一線で剣をとるか、さっさと家へ帰って休む方が万倍もマシというものだが...
フゥ、煙草を手放せそうにない。



キィッ



換気のために開けていた窓が風に押され、軋む音が静かな室内に響いた。



「なんの用だ。」

「あれ?気付かれてた?」

「気付いてほしくて気配を垂れ流していたんじゃないのか?」

「まぁ当たってると言えば当たってるんだけど...」

「さっさと入れ。見られたら面倒だ。」

「一さん以外に見られるような間抜けするわけないでしょう?」

「だといいんだが、お前も案外抜けているからな。」



軋む音を響かせる窓に目を向けることなくその窓の向こうにいる瞳に声をかける。

まったく...こんな時間に何をやっているんだ。

唯一開けていた窓から当然のように入ってくる瞳を視界の端に捉えつつも手を進める。
もう夜も遅い。
わざわざ時尾の姿でなく袴姿でここにやってきた瞳に疑問が浮かぶ。
今までこんなことはなかったから尚更か。



「一さん、今日まだまだ遅くなるんでしょう?」

「あぁ。」

「ちょっと聞きたいことあって。」

「緊急の内容なのか?」

「私としては、ちょっと落ち着いて待ってられないぐらいの内容。」

「なんだ。」

「え、今いいの?」

「急ぎなんだろう?」

「いや、そこまで大したことでもないんだけど...仕事関係ないし...
一さん忙しいなら仕事手伝って、それが終わってからでもと思ったんだけど......」



『私としては急ぎだ』と言ってくるから聞いてみれば濁してくる。
一体なんだと言うんだ。
皆目見当がつかん。
表情や雰囲気を見ている限りでは大したことはなさそうだが...
なかなか本題に踏み出そうとしない瞳に再度促がした。
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