朝なんかこなくていいのに

□「皆といっても俺とお前しかいないが...医者にでも行くか?」
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ピチチチチッ




小鳥のさえずりが響く

寒さも徐々に落ち着いてきたし

晴れ渡る空が気持ちいい



朝食を済ませて縁側で仕事に向かう前の一服をする五郎さんにお茶を運び隣に座る。

本当にいい天気。
今日の洗濯もはかどりそう。

庭に向けていた目を五郎さんに向けると
五郎さんも気持ちよさそうに目を細めている。
壬生狼なんて言われてたけど
本質は狼だと思うんだけど、こんな表情見てたらなんというか猫にも見えると言うか...
最近忙しい日が続いてるから、まだ疲れが抜けきってないんでしょうね。



「五郎さんは俳句、詠まれないんですか?」

「俳句とはまた懐かしい...もうそんな季節ですか。」

「えぇ、もうじき桜が咲く季節です。きっと歳三さんがいらっしゃったら、仕事の合間に一句詠んでらっしゃるんだろうなと...
ついさっき、可愛らしい蕾を見つけたんですよ。」

「そうですか...それで、時尾は俳句を詠んだんですか?」

「まさか!私に歌の才能はありませんもの。」

「それを言うなら、土方さんといい勝負ができると思いますが。でも残念ですね、聞いてみたかった。」

「あら、歳三さんの句はまるで歳三さんそのものみたいな実直さが表れてて私は好きでしたよ?発句帳もらっておけばよかったなぁ...」



「...今年はこれから忙しくなる。
少し早いですが近々休みでも取って行きましょうか。」

「本当ですか!?嬉しい!!」

「板橋なら、ここから近い。いつ京都に赴くことになるかわかりませんからね。あちらに行ってからでは東京まで戻ってくるのも一苦労ですから...
あの人たちも時尾のことをかなり気にかけてくれてましたからね、一年に一度は連れて行かなければたたられそうだ。」

「またそんな...」



懐かしい。

思い出すだけで頬が緩んでしまう。
それは五郎さんも同じようで、いつも作ってる藤田五郎のわざとらしい笑顔でなく、自然な斎藤一の頬笑みに代わってる。

二人からクスクスと笑いが漏れた。

同志が大勢死んでしまって時代が変わっても、一人投げ出すことなく同志と誓い合った正義を貫くこの人は本当にかっこいいと思う。
一瞬たりともぶれずに突き進む姿を見ていると、私も負けていられないと思うけれど
いつか置いて行かれそうで不安になることもある。

でもすごいよね。
昔は刃を交えて戦った敵同士だったのに今は...ぱーとなーっていうんだったかしら?
こんな間柄になるなんて思いもしなかった。



ひぃふぅみぃよー...

みんなが死んでからもう10年もたったのね。
勇さんを追う様に歳三さんも総司さんもみんなバタバタと逝ってしまったって聞いたときは、敵対していたとはいえすごくさみしかったの、今でも覚えてる...

あぁぁぁ、お参り早く行きたくなってきた。

真実さんのこともあるし、今年は難しいかと思ってたから
忙しいだろうに五郎さんもしっかり覚えててくださってて一緒に行けることになるなんて夢みたいだわ。

板橋は勇さんのお墓や歳三さんの供養碑が一緒にあるから、お参りしやすくて助かる。
総司さんもせっかくだから同じところにしてあげたかったな...あの三人、本当に仲が良かったもの。
...お墓を作ってくださった松本先生に感謝しなきゃ。
先生にもしばらくお会いできてないからお会いしたいなぁ...



久しぶりのお墓参りに気持ちが高ぶる。

お世話になった大好きな人たちの命日くらいお参りにちゃんと行きたいけど
さすがにその大好きな人たちの命日が多すぎる。

それぞれの志を貫く動乱の時代だったからそれもしょうがないことだとは思うけれど...

人数だけでなくお墓だって色々なところにあるし、年に何度も行くのは難しいから、五郎さんに再会して話を聞いてからは勇さんの命日の4月25日にまとめてお参りさしてもらってた。

今年はその勇さんの命日も難しいだろうから前倒しすることになってしまったけど...

まぁいいか。
遅いより早い方がいいものね。
うん、たまにはいいかもしれない。
あの人たちには桜がよく似合うから桜の季節に丁度いい...
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