朝なんかこなくていいのに

□「ちょっ、いや、あの、電気消してもらってもいいですか??」
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「ねぇ銀さん!見て見て!」


「んー?見てる見てる。」


「見てるって......何見てるの。」


「んー?何って...男の夢と浪漫が込められたバイブル?」


「.........」





見られてる見られてる。
しかもジト目で見られてるよオイ。
その上無言の圧力というかぶせ技なんて高等テクかましてくれちゃってるよオイ。

わかってないなァ瞳ちゃんは...
そんなことしてもかわいいだけだっつーのによォ。

窓辺からソファでまったりゆったりとくつろぐ俺を嬉しそうに呼んでいた瞳をチラ見してみれば、ほっぺたまで膨らんできそうだ。
なにそれ。
おいしそうなんですけど。
食べちゃいたくなるんですけど。
瞳のほっぺただ、甘いに違いねェ。
食っちゃってもいいですか?

しまりがなくなってだらしなくにやけてくる顔を瞳に見せるわけにはいかないと本で隠していると
静かに近づいてきた瞳に奪われた。




「ちょっ!!それ俺の青春!!!」

「バイブルって、ジャンプじゃん!なんで顔背けるの!?」

「ちょっ、いや、あの、電気消してもらってもいいですか??」

「なんなの一体どうしたの!??」




いやいやいやいやいや!

ジャンプ今必須アイテムなんですけどォォォ!
それないと銀さん、顔隠せないから恥ずかしくて会話もろくにできないんですけどォォォ!
ってなにこれ!?
俺中坊ですか!??

『意味わかんない』とか『銀さんおかしくなっちゃった...あ、もとからか』なんて呟きながら電気消しにいってくれる姿に、なんというか、こう、胸がキュンキュンする。
あれ?俺ってMだっけ??

ってちょお待て。いや待ってくれ。
冷静に考えろ。考えるんだ俺。

新八はもー家に帰った。
神楽は定春連れえ新八ん家に遊びに行った。
あっちで飯食ってくるつってたからまだまだ帰ってこないだろう。
つまりこの部屋にいるのは俺と瞳だけだ。
そして今はもう冬だ。
まだ五時半といえど外は暗い。
つまりこの状態で電気を消してしまったら...

暗い密室に瞳と二人っきりィィィィィイイ!!

やばいやばいやばい!
抑えられるか俺!
いや無理だろ俺!

くっ!
神楽に泊まってこいって言っておけば...せめてお妙の料理で腹壊して寝込んでくれたらって違ァァァァァう!!
こんなことならにやけた顔見られてでも電気つけといてもらった方がってそれは嫌だ!!
やはりあの手の中に納められている俺の聖書を回収するのが一番か!!



パチッ



あァァァァァァァ!!
しまったァァァァァ!!
時すでに遅しとはこのことかァァァ!!

暗くはなってきてるとはいえ、まだ薄っすらと残っている日の光と、点き始めたネオンの明かりが部屋の中を映してくれるおかげで
瞳がはっきりと見える。
ってことは俺も向こうにははっきり見えてる??
やばいやばい銀さんの今まで培ってきた威厳が!!
逆光!!逆光作戦だ!!窓には背を向けるんだ俺!!

あれ?
ちょっとお姉さん!
なんでこっちよってくるんですか??
なんで俺の腕をとるんですか??
なんでそのまま引っ張るんですか??
そのまま俺はどこへ導かれるんですかァァァ!???
まっ、まさか、まさかそんな積極的なっ!!

なんて一人密かに内心興奮してたら
さっき瞳がいた窓際まで連れて来られた。
いや、銀さんショックとか受けてないからね!?
別に寝室という名の天国へ案内されるなんて期待してなかったからね!?
なぜならそれは男である俺の仕事だから!!



「ジャンプ好きなのも知ってるし、読んでいいとは思うんだけど、今はこっち見て?」

「こっちって?」

「ほら、今日の夕焼け、すごくきれい。まだ西の空は明るいのにね、あそこにはっきり月も見えるの。」

「...あぁ、そうだな。」



目を細めて月を見上げる横顔に見惚れる。
綺麗に笑いやがる。
煩悩も吹き飛ばされるぐらいに。






「月が、綺麗ですね。」




「なに急にそんな改まって。」

「いや、言いたくなってよ。気になるならネットで調べてみな。」

「なにそれー。」



クスクスと笑う瞳は実は天使なんじゃないかと思う。
こんなに綺麗で可愛く笑う。
目が離せない。
まわりのものまでどこまでも綺麗に見えてくるんだ。

誰かが言った愛をつたえる言葉を思い出してそう囁いた。

 

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