朝なんかこなくていいのに
□しょうがないでは終われない
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「おかえりなさい宗ちゃん。」
「あ、瞳さん。ただいま戻りました。」
「ってさっきもいたんだけどね。」
「ハハハ」
返り血なんていつも浴びないようにしてるのに今日は珍しく袖に少しついてしまった。
そういえば前に、返り血はそのままにしておいたらなかなか落ちないんだって怒られたことがあったっけ...
あの時の瞳さんの気迫はすごかったなぁ。
思いだすだけで笑いがこみあげてくる。
本人の前で怒られてるときに笑ったら大変なことになるからあんまり笑えなかったけど。
今回も早く落としちゃわないと、また怒ってくれるんだろうなぁ。
不機嫌な瞳さんもいいんだけど、志々雄さんにもとばっちり行って文句言われそうだし、早く落とさなきゃ。
そう思って、志々雄さんに報告してからまっすぐに近くにあった川に向かった。
「報告したらすぐに行っちゃうから追いかけてきちゃった。」
「すみません。」
「珍しいね、血、着いちゃったの?」
「そうなんですよ。前に早く落とさないとダメだって瞳さんに教えてもらったから、早く洗わなきゃと思って。」
力を入れて洗ってもなかなか落ちないどころかじんわり滲んで拡がっていく一方で、薄くなりはしても落ちはしない。
これは瞳さんが怒るのもしょうがないかなぁなんて思いながら洗っていたら、横から袖をとられた。
「そっか...貸して?そんなゴシゴシ洗ってたらせっかくの着物が傷んじゃう。」
「ありがとうございます。」
「お湯使えたらもっと落としやすいんだけど...
志々雄さん、体あったかいから、体の熱でお湯作ってくれないかな...」
「ップ!」
「でもそんなことお願いしたらきっと由美姉さんブチギレるよねぇ...」
「アハハハハ!」
「ヘヘヘ」
全体を水に浸してしまっていたのを軽くすすいで絞ってから、手ぬぐいを当てて叩きながらそんなことを真剣に呟く瞳さんに我慢をすることができなくて、とうとう笑ってしまった。
そしたら怒るかと思っていたのに一緒に笑ってくれて、なんだか心が満たされていく。
どれくらい前のことだったかな...
志々雄さんが教えてくれた。
僕には喜怒哀楽の楽以外の感情がないんだって。
だからいつもどんな時も笑ってるんだろうって。
だからこそ強くなれるって。
確かにそうなのかもしれない。
本当にいつからだか忘れてしまったけど、
笑うことは本当によくある。
気がつけば笑ってるんだ。
楽しいのか、嬉しいのか、なんなのかわからないけど、気がつけば笑ってる。
でも、
苛立って怒ることもなければ憎むこともないし、哀しかったり悔しかったりで泣くこともない。
それがどんな気持ちかも忘れた。
別にそれが変だとかおかしいとか嫌だとか...
疑問に思ったことはないんだ。
志々雄さんのおかげで、この世の真理がわかったから、僕がすべきことも見えた。
『強ければ生き、弱ければ死ぬ。』
その条理に反さず生きていく。
それだけで十分なんだ。
何も疑問はない。