白銀に輝く空
□其の三
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どたどたと引きずられながらその家の奥の方の部屋に通された青波は、兄の目の前に正座で座らされていた。
「で?今日はどういうつもりだったんだ?!桂さんの頼みも断りかねんかったろう!!今日のお前は!!」
綺麗な顔をゆがめて、男は青波を叱咤した。
「や…だから…その…」
これを言うのは今日で二回目だ。
なんでよく知りもしない男にこんなに怒られなければならなのだと青波は顔をしかめた。
「あの…今日のその…粗相はお詫びいたします…ところで、これはドッキリですか??」
なんだか本気で怒っている感じはしたので、一応謝るが、こんなのありえないという気持ちはまだまだある。
あとからバカにされるのも癪なので、青波はドッキリ〜っと言われるのを期待して、恐る恐るその男にきいてみた。
「どっきりぃ?なんだそれは、わけのわからんことを言ってないで、お前は本当にやる気があるのか!!せっかく桂さんが見込んでくれたというに!!ブツクサと抵抗しやがって!!」
(嘘?!火に油注いじゃった?!)
どっきり?という青波の質問に逆上した男は、どんどん血圧をあげている。
「まぁまぁ、急にいわれて、すこし驚いてるんでしょう?ね?」
さっきの可愛らしい女の人がお茶をもって部屋にはいってきた。
「急なものか!!昨日からあれほど言っていたのだぞ?!」
「あなた、お声が大きいですよ。」
微笑んでかるく嗜んでくれた女の人に青波は少し感謝する。
しかし…この人はどうやらこの男の嫁さんのようだ。
「あの…失礼しますが…お兄さん?」
「なんだ?!」
かっとかみつくような勢いでこちらを向いた顔に一瞬びくつきながら…
「俺・・・桂さんに会ったとき、天井から落ちたんだよね・・・だから、なんだか記憶が・・兄さんの名前ってなんだけ?」
ちょっとごまかしを入れて、それとなく聞いて・・・
「お前は兄の名前もわすれたのか!?まぁ、それならば今日の言動にも説明はつくがっ!!いったいお前は何をしていたのだ!!」
またも烈火のごとくに起こりだすお兄さんに青波もドギマギだ。
「す、すいませっ」
「まぁまぁ、あなた、聞いてるんだから言ったらいいじゃない。」
「春次だ!!そしてこれが俺の嫁のキエ!!どうだ!!思い出したか!?」
「えぇ。。。。なんとなく・・・。」
思い出したとかの次元ではないが、一応そう答えておいた方が無難であろうと青波はもごもごという。
「まったく・・・で?桂さんの頼み、ちゃんとお受けするのだな?まぁ、いまさら断るとなっても土台無理な話だがなっ!」
(あぁ、あの間者になるとかどうとかいう・・・にしても・・・どこだっけ?なんか・・危険なところに潜入するっていったけどな・・・。)
ぽけっとした顔で考え込んだ青波に、またイラッとしたのだろう。春次は語尾を荒げた。
「新撰組に間者として入隊する話だ!」
(あぁ、新撰組にね。ってそんなこと大声で言ったらまずいんじゃないの?お兄さ・・・)
「って・・・えぇ!?新撰組に!?」
「まったく・・・何を聞いていたんだ。お前は。」
頭を抱え込んで絶句する春次にキエが声をかけた。
「そりゃ動転もしますよ。潜入するのがあの天下の新撰組じゃぁ、しかも桂さんじきじきのお頼みなんて・・・見つかればただちに斬られるじゃありませんか。」
まだフリーズ中の青波をみて、春次はまたため息をついた。
「桂さんがお前を下さったんだ。それ相応の仕事をせねばならないんだぞ?」
「そ。そ。そ。。。そんなこと言われましても・・・」
「お前も昨日までは乗り気だったろうが?」
「そ、そうなの?なにしてんの!?俺!?」
「・・・・はぁ、今日は疲れた。だが、何があっても、お前は間者として、新撰組に潜入せねばならん。明日はそのために新撰組の屯所に行けよ。もう後戻りはできんからな。それあ、俺は寝る。」
またもこの期に及んで慌てだした俺にあいそを尽かしたのか、春次は奥の部屋にひこんでしまった。