★TVXQ★
□MIROTIC -呪文-
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1.ユチョン
気がつくと薄暗い空間に立っていた。
何がどうなってここにいるのか、ユチョンは全く分からなかったけれど、ここが自分の知らない場所だということだけは分かった。
何が起きたんだ?
ついさっきまで、みんなと一緒にいたのに…
急に誰かに引っ張られて…ココに…
とにかく誰かを探そうと一歩踏み出したユチョンは何かにぶつかった。
「痛っ…!」
思いっきりぶつけたおでこを擦りながら目の前の空間を手で確かめる。
何かに触れた。
見えない何か…
壁…?
手探りで調べると、自分が透明な壁に囲まれているのだと分かった。
一人閉じ込めておくには調度いいくらいの狭い空間。
その透明な壁は僅かに射しこむ光を受けてボンヤリと光っていた。
これは何だ?
まるで…
クリスタル…
力を込めて拳で叩いてみたが、ビクともしない。
誰かいないのかと大声で叫んでみても、何の反応もない。
壁の外には薄暗い空間が広がっているだけ。
何者の気配も感じない。
「どうしよっか…」
叫び疲れたユチョンは、諦めたように透明な壁にぐったりと身体を預けて自分の足元に視線を落とした。
ん?
不意に何かが視界に入り込んでユチョンは顔を上げた。
透明な壁の向こう側に紅い布をまとった女が立っていて、ユチョンを見て微笑んでいる。
微笑む彼女の唇は紅く魅力的だった。
思わず見惚れてしまうほど…
そんな場合じゃないだろ…
自分に言い聞かせるように心の中で呟いて、ユチョンは目の前で微笑む彼女に助けを求めた。
「助けてくれたらデートでもしよう」なんて言葉を付け足して。
だけど、彼女は面白そうに笑うだけで助けてくれる気配もない。
俺、何か変な事言ったか?
「ユチョン…」
戸惑うユチョンの頬に彼女が手を伸ばしてきた。
透明の壁は彼女の手と腕だけを受け入れて、ユチョンの頬に優しく触れた。
そして、彼女はユチョンの名前を呼びながら優しく身体に触れていく。
ユチョン…
ユチョン…
その声がユチョンの耳を支配して、そこから全身を支配していくようだった。
力が抜けていくのを感じながら、意識が薄れていくのを感じながら、ユチョンは彼女に身を任せる以外なかった。
「やっと捕まえた…私の可愛いユチョン」
そう囁く彼女の口から何やら不思議な言葉が紡ぎだされていく。
彼女は一体…
その言葉を聞いてはいけない…
紅い魔女の『呪文』を…
聞いてはいけない…
記憶の中の誰かが、そう言っている。
ユチョンはギュッと目をつぶって、両手で耳を塞いだ。
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