戦国BASARA

□スペアミント
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↓ちょっとした設定↓

佐助…高校3年生
幸村…高校2年生

幸村と佐助は幼なじみで現在同居中。武田先生は二人が幼い頃からよく面倒を見てくれている。






目の前が暗転した。

どこか遠くで何度も名前を呼ばれていた気もしたが、やがてそれさえも解らなくなっていく。






「……んっ…」

目を開けると真っ先に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。

「おぉっ佐助っ!!気がついたか!!」

それに次いで聞き慣れた声。
声の主の方を見ると旦那が安堵したような、嬉しそうな顔をして俺に駆け寄ってくる。

「ここ、家…?俺様、たしか学校いた気がするんだけど…」

「お前、何も覚えてないのか?」

旦那が驚いたように聞いてくる。
今日は朝旦那と一緒に家を出て、学校に行って授業を受けて…。
一日の行動を思い出していたところで記憶がすっぽり抜け落ちていることに気付いた。

「あっれおかしいな。俺様一体どうしちゃったわけ?」

どうしても午後からの行動が思い出せず旦那に何があったかを聞いてみる。
すると旦那は

「倒れたのだ。五限目のときに。騒ぎを聞いたお館様が家まで運んでくださった」

そう答えた。

倒れた。
その事実に一番驚いたのはおそらく自分だったろう。今まで一度も倒れるなんて経験がなかったからどうしてそんなことになったのか全く解らない。

「どうしてまたそんなことに?」

「天海先生いわく疲労が溜まっていたのと風邪の症状の悪化とが一遍にきたと言っておられたぞ」

それを聞くまで自分が倒れたということに現実味がなさすぎてどこか他人事のように思っていたのだが、天海先生に診察されたのを覚えていないとなるとそのことに急に現実味が湧いてきた。

天海先生の診察はかなり疑わしい。
保健医の言うことなのだから間違いないのだろうがあの胡散臭い先生の診断と思うとどうにも信用しにくかった。
それに俺様の知らないところで俺様の体が保健室入りしていたと思うと不安で仕方なくなってくる。

「旦那、俺様今からちょっと病院行ってくるわ…」

気がきではなくなって立ち上がろうとすると目の前が大きく揺れた。
目眩と共に鋭い頭痛までも感じる。
それに筋肉が痺れるように痛み体が言うことを聞かない。
体中に熱が停滞しているようで暑いのに悪寒さえ感じる始末だ。
どうやら人生初の失神は最悪のフォームだったらしい。

「動いてはならぬぞ佐助!!倒れたときに体を強く打ったと聞いている。しばらくは安静にしておらねば」

旦那に倒れ込みそうになった体を支えられ俺様は再びベットに戻された。
なんだか旦那にこうされていると不思議な気分だ。
いつも看病をするのは俺様の方なのに。

「そういえば旦那は学校どうしたの?まだ授業終わってなかったでしょ。それに部活もあるんじゃ」

「馬鹿を言え。佐助が倒れたというのに授業など聞いておれぬ」

旦那はそう答えると、何かを思い出した顔をした。

「そうだ佐助!お館様が林檎をくださったのだ。風邪にはびたみんが必要だとおっしゃられていた。今食べられるか?」

「大丈夫、だと思う」

「そうか!なら今から剥いて来るから少し待っていてくれ!」

「え、旦那林檎の皮剥きくらい俺様が…」

「今日は絶対安静にしておかねばならぬと言っただろ。心配するな。林檎の皮くらいこの幸村の熱き魂で剥いてみせる!!」

高らかに宣言して旦那は台所へと行ってしまった。
大丈夫だろうか。
不安なので手伝いに行きたいのだが今は立ち上がることさえ億劫に感じる。


旦那にはかなりの心配をかけてしまったらしい。
普段は授業も部活も絶対に休まない旦那がどちらもほっぽらかして家に帰ってきた。
それに額に貼られた冷えピタや打撲したところに貼られている湿布を見る限り、俺様が目覚めるまでつきっきりで看病してくれていたようだ。
少なからずこの湿布の不器用な貼り方は天海先生によるものではないだろうから。

情けねぇなぁ。

ベットの上でそうひとりごちた。
いい歳して体調管理もろくに出来ずに倒れるなんて。
あげくの果てには旦那や武田先生に心配をかけてしまっている有り様だ。

己が情けなくってしょうがなかった。

"俺様は忍だ。
誰の助けもいらない。
助けられてはいけない。
忍とはそういうもんだから。
俺達は消耗品なんだから。消耗品が助けを必要とするなんてちゃんちゃらおかしいんだ。"

ふと、脳裏でそんなことを考えていた。
忍?
何をわけの分からないことを考えていたのだろう。
俺様は境遇は稀なのかもしれないが普通の高校生なのに。
倒れたときに頭でも打っておかしくなってしまったのだろうか。

ズキリ。
激しい頭痛がした。
倦怠感と疲労感が体を重くさせる。
何かを思い出しそうになっていた頭にたちまち霞がかかった。
悪寒が再び押し寄せて掛けられていた毛布に包まる。寒い。とても寒かった。


「すまぬ、待たせたな佐助」

その声に意識が呼び戻された。
どうやら軽く寝てしまっていたらしい。
見ると旦那がガラス制の皿を持って部屋に入ってくるところだった。

「起こしたか?」

「いや、丁度今起きたとこ」

体を起こしてベットの側面に寄り掛かると自信満々な表情で旦那が持っていた皿を差し出した。

「どうだ佐助!!なかなか上手く出来たぞ!!……少し小さくなってしまったが」

皿の中には不格好ではあったがウサギの形に見えなくもない林檎が四つ並んでいた。
多分皮をむくときに中身も一緒に削ってしまったのだろう。
たしかにそのウサギ林檎は普通のと比べると小さかったが旦那が俺様の為に剥いてくれたというだけで嬉しかった。

「ん。旦那にしては上出来じゃない」

「そうであろう!!俺が風邪をひいたときは佐助がいつもこうしてウサギの形に切ってくれたからな。真似てみたのだ」

なかなかに難しいのだなと言いながら、旦那は俺様が林檎を食べる様子をしばらく嬉々として眺めていた。

「なぁ佐助。他に何かやってほしいことはないか?なんでもいいのだ。料理でも選択でも掃除でも」

「やってほしいことと言われてもねぇ…」

その要望には少々答えに困った。
旦那が俺様のことを気遣ってくれるのは嬉しいのだがなにせ旦那は幼い頃から破天荒っぷりを発揮していた人だ。
幼い頃は手伝いたいと言ってきたので家事を手伝ってもらうと、必ず家電が何か一つは破損するなんてことがしょっちゅうだった。
そんなこんなで家事を依頼するのは気が引ける。
ただ旦那の好意を無駄にするわけにもいかない。


「なんでもいいのだ。お前には普段、助けられてばかりだから。こんな時くらい何か力になりたい」

旦那がシュンとした声音でポツリポツリと呟きはじめた。
おそらく、自分が家事に向いていない自覚はあったのだろう。

「それに、佐助はあまり人に頼らないだろう?俺じゃ力不足かもしれないが、弱っているときくらい、俺を頼ってほしいのだ」

真っ直ぐ見つめられた瞳はどこまでも透き通っていた。
不思議な感覚だった。
俺様はこの瞳に何十、何百もの年月の間見つめられている気がして。
旦那はずっと昔から、こんな風に思っていたのだろうか。
俺様自身、自分が思い浮かべている"昔"というのが何時を指しているのかは分からなかったけれど。
熱のせいではっきりしない頭はそれ以上深く考えることをやめた。

「じゃあさ、一つお願いしてもいい?」

「なんだ!!なんなりと言ってくれ!!」

子供の様に目を輝かせ旦那が身を乗り出して来る。
さっきまであんなに落ち込んでいた表情をしていたのに、本当によくくるくると表情が変わる人だ。

「すごい寒気がするんだわ。だからさ。添い寝、してくんない?」

そう言って旦那の袖を引っ張っると、旦那は一瞬顔を真っ赤にしてそれから少し躊躇いがちに布団の中に潜り込んだ。
すぐ隣に旦那の体温を感じる。
普段からお熱い真田の旦那は体温も高かった。
思わず旦那の腰に手を回して胸板に額を預けた。

「っ、破廉恥でござる!!」

「寒いんだから仕方ないでしょ。それに、ちっさい頃はよくこうして一緒に寝てただろ?」

すると旦那は小さく唸ってからしぶしぶ俺様の首に手を回す。

「風邪移しちゃったらごめんね?」

「そのときは佐助が俺のために林檎を剥いてくれるのだろう?」

それに小さく頷いてから瞼を閉じる。
旦那の心音が耳元で心地好くリズムを刻んだ。
その音が、その温もりが、今日何度目かの眠りに俺様を誘った。
できるなら、いつまでもこのままで。

そんな淡い願いを思い描きながら、睡魔に身を委ねた。
伝う旦那の温かさを感じながら。




END

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