八雲

□後藤家騒動
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「八雲ぉぉお!!」
野太い声が後藤家に響きわたった。

この日うだるような暑さの中、晴香と八雲、石井は後藤家に集まっていた。

「後藤さん!?」

叫びを聞いて一目散に走り出したのは、
居間の扉に一番近い位置にいた石井と晴香。

扉の開いた脱衣所を覗き込むと、
そこにはぶかぶかのワイシャツを羽織った奈緒が立っていた。

奈緒が心へ語りかけてきた言葉を要するに、『お着替えしようとしたらワイシャツが目に入ったので羽織ってみた』ということらしい。
掌が出てくるように袖が折り曲げられているが、
肩が余りすぎてずり落ちている。
ボタンもきちんと留められているが、丈が長すぎて床に引きずっている。

人の心配をよそにニコニコとしている奈緒と後藤に、
二人が脱力していると、後ろから悠々と歩いてきた八雲が顔を覗かせた。
「おお、八雲。可愛いだろう?さすが俺の娘だ!!」
「まさか…その為に呼んだんですか?」
「そうだぞ。」
だんだんと八雲の後藤を見る目が厳しくなってきた。

「………ロリコン?」

「本気で心配する目で言うな。断じて違う。」
「それでは親馬鹿熊ですか?言いづらいので馬鹿熊ですね。」
「誰が馬鹿熊だ。それじゃただの馬鹿な熊じゃねぇか。」
どちらにせよ変りませんよ、と八雲が応戦している間に隣り合う風呂場から敦子がひょこっと顔を出した。
「あら、皆さんお揃いね。
悪いんだけれど、今からこの子と水浴びしたいから出て行ってもらえる?」

有無を言わさず脱衣所を追い出された一行が居間に戻ってきた後、
また八雲と後藤が言い合いを再開した。

「お前は素直じゃねぇ。
可愛いもんを可愛いと言って何が悪い。」
「馬鹿熊は変態にしかみえませんよ。
一度警察に通報されたほうがいいんじゃないですか。」
「俺は警察官だっ。」
「ロリコン警察官の事件…ワイドショーが沸きますね。」
「あーだこーだうるせぇな。
奈緒は可愛いだろうが、八雲は思わねぇのか!!」
後藤が暑苦しく叫んだ時、がちゃりと居間の扉が開き水浴びを終えた奈緒と敦子が入ってきた。

「大体ですねぇ」
八雲は言葉の合間にため息をついた。

「ほっといても、奈緒にその内彼氏ができたらワイシャツを羽織るようになると思いますよ。
彼氏のぶかぶかのワイシャツ羽織ってお父さーんと呼ばれたらどうしますか?
それを諸手を挙げて可愛いだなんて言えるんですか?
僕は後藤さんは耐えられないと思いますけど。」

「そうねぇ、なんたって親馬鹿熊だもの。」
後藤の言い返す間も無く、
八雲と敦子の『口撃』に耐えきれなかった後藤は撃沈していた。
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