novel*h

□気まぐれな、お姫さん。
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「沖田ぁ…?」


カラカラ、と、少し控え目に戸を開ける。

上級生のクラスが並ぶ階に行くのは、放課後であろうと気が引けるもんだ。
俺は、一応押し殺した声を出して沖田のクラスを少し覗いた。


とたんにどっと聞こえる、複数の男女の笑い声。


思わずびくっと足が止まり、同時に手も離してしまった。


2、3秒固まってから、それは隣のクラスからだと気が付いた。

(なんだ…びびった…)

来るときは静かだったから、てっきり全員帰ったのかと思ってた…


というか、早く帰れよ。


なんて、口に出しては言えないので心の中で呟く。

まぁ、俺の勝手な文句には変わりないが。




気を取り直して、もう一度教室の中を覗いてみた。


誰もいない…?


いや、いた。


後ろから2番目の列で、頬杖をついて外を見る沖田の姿。

外に何かあるのだろうか、

そう思って見てみるけど、特に変わりばえしない景色があるだけだった。


ちなみに、さっきから沖田はピクリとも動かない。

まさか、俺が来たことに気づいてないんじゃ…


「、沖田?」


ゆっくりと沖田に近づいていく。

そして顔を見てみると、


(………寝てる?)


どうりで、動かない訳だよな。






こうして改めて見てみると、やっぱりこいつ綺麗な顔してるんだなって思う。

男の俺から見てもこうなんだから、女から見たらさぞかしタイプなんだろう。

肌だって綺麗だし、
睫毛なんか、長くて影ができるくらいだ。

それに、形が良くて、薄くても柔らかい、唇…。



…………やばい、可愛い。


沖田の寝顔をまじまじと見ていたら、唐突に
…キ…キスしたく、なってきた…


だ、駄目かな?

いや、ちょっとだけなら…!


そう考えてるうちに、沖田の顔が目前に迫ってきた(迫ったのは俺だけど)。

そして、俺も目を閉じて、
薄く開いている唇を、自分のそれで塞いだ。


……柔らかくて、甘い。



何秒たったか何分たったか分からなくなるほどに塞いでから、
うっとりと目を開けて唇を離す。

その瞬間、俺の目の前には、綺麗な2つの翡翠と、
片方だけ口角が上がった、完全に怒ってるときの唇。

さっきまで俺が塞いでいたはずのそれは、ゆっくりと開き…




「…なに、してんのかな?」







…あ…俺、終わったな。




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