novel*h

□帰り道
1ページ/2ページ


12月。
日が短くなった真冬の道路に、街頭で照らされた二人の影が落ちる。

まだ積もったばかりの雪は、ぎゅ、ぎゅ、と音をたてて二人に踏まれた。


「うぅ…寒いね、一君」

「…あぁ」

「手、つなごうよ」

「、総司」

「なぁに?」

「…人目につく。」

「はいはい、分かったよ」


沖田は、寒さと愛しさ故の提案を断られ、少し唇を突き出した。


「嫌なわけでは、ない…」

「ふふ、分かってるよ」


それでもこの、可愛らしい恋人の、恥ずかしそうに俯く仕草には弱いのだ。







【帰り道】

僕の隣には、大好きな一君。

なんでもない話をしながら、一緒に帰るのが僕の日課。


と、その時、すぐ側を何やらせかせかと歩いていった知らないおじさん。

向こう側のパチンコ屋を見て、そこに行くのかな、なんて考えながら
一君に話しかける。


「ねぇ。
すぐ横を通って行く人に、すれ違い様に足引っかけたくならない?」

「あんたは馬鹿か。」


思った通りの反応。

じゃあ、これはどうかな?


「あとさ、隣歩いてる人にも…」


言い終わらないうちに一君の前に足を出したけど、
ひょいっと軽く跨がれてしまった。


「あは、バレた」

「バレない訳がないだろう。」


こっちを見て、いたずらっぽく笑う君に、不意打ちでどきっとする。

もう、ズルいよ。そんな顔。


「ん…本当に寒いな…」


一君は、首に巻いた白いマフラーを口元まで上げて、そのまま息を吐き出した。

雪みたいに真っ白に変わった息が、僕達と反対方向に流れていく。


「じゃあ、僕があっためてあげるね」

「どうやって…」

「僕の家に着いたら分かるよ」

「!」

「あれ、分かっちゃった?
……ベッドで、ね
一君が、満足するまで」


一君の耳まで顔を近づけ、
意識して声を低くして囁けば、
みるみるうちに、その耳は赤に変わった。

これって、寒さのせいじゃないよね?


「……やめろ…」


そう言って、また下を向く君がすごく可愛くて。

「大好きだよ、一君」


君がいちばん。





「俺も…好きだ、総司」


返ってくるとは思わなかった、嬉しい返事。



もうほんと、ズルいよ、

一君。





fin.

_______________
→あとがき
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ