浅い夢−鳴門−
□雪に涙
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「おい、聞いたか。」
一人の男が、女に問いかける。
「ええ、あの子が・・・。」
最後まで言うことを躊躇った女は、途中で口を閉じた。
男と目を合わせて、ため息をつく。
呆れたようなため息ではなく、悲しみに支配された苦しそうなため息。
深い悲しみを潜めた瞳の女に、男は一言。
「ゲンマには言うなよ。」
脅し、というよりは忠告に近い音色。
もちろん、分かってるわ。と、女は軽く頷く。
「俺に何をいわねぇんだ?」
女が頷いて一呼吸置いたぐらいに、口に長い爪楊枝のようなものを咥えた男が現れる。
「・・ゲンマ!」
悲鳴に近い声を女が上げ、男が俯いた。
「なんでもないわ・・・。」
驚きの表情から、また悲しげな表情になり、女はゲンマと呼ばれた男を見つめる。
「・・・なんか言ってただろ。」
長い爪楊枝――否、千本を咥えた男は、鋭い視線で女を見つめる。
別に・・・と、歯に物が挟まったような物言いで、誤魔化そうとする女を、俯いていた男が止める。
「・・・もう良いだろ。結局はかくしきれないんだ。」
優しげな、しかしどこか虚ろな瞳で、男はゲンマに向かって口を開いた。