浅い夢−鳴門−
□きっと惹かれたのは出会ったころから
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目の前のコップを両手で包み込むように持ち上げる。
視線をコップに落とし、僅かに中の液体を揺らせば、氷が沈む。
沈む氷にパキッと音を立て罅が入るのを見届け、隣にいる男へ視線を向ける。
千本をゆらゆらと上下に揺らし、頼んだ南瓜の煮付けを待つ男。
ふいに視線が合い、ふと男が口元を妖しく歪ませた。
男の名前は不知火ゲンマ。
同じ特別上忍で、数ヶ月前に知り合った人。
特に親しい訳では無いが、今日の飲み会で、気付けば隣に居た。
歪んだ口元に少し魅せられたという事実を悟られないように口を閉じる。
「南瓜の煮付けです!」
元気の良い女性の声と共にゲンマの目の前に置かれた南瓜を、ゲンマは箸で掴み、いつのまにか銜えていたはずの千本を懐になおし、口に含む。
ゆっくりと味わうように南瓜を咀嚼するゲンマを刹那はじっと見つめる。
「欲しいのか?」
視線に驚くことなく、刹那に問いかける。
千本を銜えていない口元が、新鮮に見える。
別にそういうわけじゃない、と視線を逸らし再びコップに手を伸ばす刹那。
ゲンマがそんな刹那の腕を掴み、瞳を覗き込む。
ゲンマに触れられている腕に熱が帯びる。
そんな熱を感じたのか、肩を揺らし少しゲンマは笑い、刹那に誘いの言葉を投げかける。
「このまま二人でかえっちまうか。」
もちろん、其の言葉に含まれる意味は、刹那も知っていた。
嫌いなわけじゃないし、酒の力か何なのか、ゲンマがイケメンに見える。
すっと通った鼻、口角の上がる妖しげな口元。何もかもを見透かしたような鋭い瞳。
自分でも正常な判断ができてないことを知っている。
酒場の喧騒の中、嫌に静かに響いてきたゲンマの甘い誘惑に堕ちた。