BL小説(TIGER&BUNNY編1)

□【虎兎】愛のかたまり
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貴方と同じ香りが僕の頬をかすめる。
つい振り返ってしまうんだ。

貴方な訳がないのに…





虎徹さんがヒーローを引退すると言った。
あの事件の後。

…能力減退…
そんな大事な事を何故あの人は僕に隠していたんだ?
あんな、息も絶え絶えな状態の中、まるで何かのついでみたいに…
おかげで僕はびっくりしてパニックを起こした。
何かを一生懸命叫んでいた。
虎徹さんが意識を失わないように…

本当に、肝心な事はギリギリにならないと言わないんだから。


あの人が引退を口に出した時、僕も頭より先に口が動いていた。

"僕も引退します。"

そう。僕にとっては至極当たり前の言葉。
貴方がいないヒーローの世界は僕にとって意味のないものだ。

元々、ヒーローになったのは、両親を殺した犯人を捕まえる為。
マーベリックにお膳立てはされたものの、ヒーローになって犯人への手がかりを掴もうと決断したのは自分。
ウロボロスの事はまだ解明されてはいないけれど、僕はあの時思ったんだ。
虎徹さんと一緒でないとヒーローをする意味がないと。
だから、引退をするとなんの躊躇もなく言った。

でも…僕らの関係は…?

そう。
僕らは付き合っている。
娘さんがあの人の隣にいたから聞けなかった。

"バディを解消したら、貴方は僕との事をどうするつもりですか・・・?"

虎徹さんは娘さんのいるオリエンタルタウンに帰る。
それは娘さんとの約束。
約束は守る人だ。
ましてや、大事な娘さんとの…

では、僕との約束は?

ずっと傍にいる。
あの人はそう言って僕を優しく抱きしめた。
あの時の約束は?

そう一瞬思った僕は浅ましい。

娘さんの顔を見て、僕は自分がいやになった。
だから、言い訳のように言ったんだ。

"自分を見つめ直す旅に出る"

その後は2人ともボロボロで入院した後、引退するまでメディアへの対応やら、書類提出やらで実質アポロンメディアを去ったのは一ヶ月半後だった。

そのおかげで僕は虎徹さんとの事を考える事が出来た。
入院2週間、メディア対応やらで一ヶ月。

バディを解消したら、僕らは別れなくてはいけないのか?
別々の道を歩むから別れなくてはいけないのか?

離れる・・・別れる・・・でも何故?
僕はまだ彼が好きだし、愛してる。
虎徹さんだって僕の事・・・

そうか・・・別に離れ離れになるとしても別れる事はないんだ・・・

だって、貴方・・・・・まだ僕の事好きでしょ?


そこまで考えて、ふと疑問に思った。

あの人はどういう考えにいきついた?

彼の事だから、僕より娘さんを取ったと思って罪悪感に苛まれているに違いない。
そして、僕の幸せを考えて自分の気持ちを閉じ込め、僕から離れようと考えるかもしれない。

そう思ったら、何故かイライラした。
自分の幸せなんて自分で決める。
いくらあの人でも決められてたまるか!

あぁ〜…そうだ…
簡単な話…僕は僕の思う通りにしよう…

そう思ったら僕の気持ちはすっきりした。

虎徹さんとは別れない。
例え、離れ離れになっても気持ちは変わらない。
その自信はある。

後は彼がどう話しかけてくるかだ。



とうとう最終日の前日まで話がなかった。

どんだけヘタレなんだ、あの人は?

挙句、僕が寝てると思って独り言を言った。

"お前はどう思ってんだ?"
"明後日で離れちまうんだぜ?"


ヒーロー最終日の夜、僕は虎徹さんの部屋に行った。
いくら待っても話さないから僕の方から仕掛けた。

"バニーちゃんにはお見通しか〜…"

当たり前です。

"悩んで損したな〜・・・"

ほんとですよ。


あの時の虎徹さんは本当に驚いた顏していたな・・・
思い出すだけでも笑ってしまう。

ああ・・・貴方はどうしてこう・・・自分の事になると不器用なんですか?
・・・ま、僕も人の事言えないですけどね・・・




今は色んな街に来ていて、いろんな物を見ている。
今までの僕の世界はなんて狭い世界だったのかと思い知らされてしまう。

「バーナビー?」
「はい?」

突然声を掛けられて振り向いた。
そこには小さな女の子がいた。
僕は女の子の目線までしゃがみこんで笑顔を作る。

「違うよ?似てるってよく言われるんだ。」
「え?そうなの?」
「うん。だから、ごめんね?」
「ううん。あたしの方こそ、ごめんなさいっ!」

女の子は頭を下げて微笑んだ。

「メリー!何してんだ?」

女の子の後ろから男性が声をかける。

「パパ〜〜!!」

メリーと呼ばれた女の子が男性に近付く。
メリーを抱きかかえ男性が近づいてくる。

「すみません。この子がご迷惑をおかけしたみたいで・・・」

あ・・・この匂い・・・

「あ・・・いえ・・・」
「この子、バーナビーのファンなんですよ。将来はお嫁さんになるって聞かなくて・・・」

抱っこしているメリーを優しく撫でながら困ったように笑っている。

「あたし、お兄さんのお嫁さんでもいいよ!バーナビーに似てるから。」
「こら、止めなさい。」
「は〜〜い。」
「すみませんでした。」
「いえ。僕の方は大丈夫ですよ。」
「では、私たちはこれで・・・。ほら、メリー。お兄さんにバイバイは?」
「バイバイ!」
「うん。バイバイ。」

メリーに手を振り、さよならを告げる。
2人はそのまま来た道を歩き出した。
2人を見送りながら僕はまた歩き出した。

・・・虎徹さん・・・
また、貴方と同じ香水の人がいました。

でも、やっぱり貴方じゃない・・・

不意に虎徹さんの顔が目に浮かんだ。

"バニーちゃん"

"バニー"

"バーナビー"

声が聞きたい・・・顔が見たい・・・

僕は携帯を取り出すと愛しい人の名前を呼び出していた・・・




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