BL小説(TIGER&BUNNY編2)

□【虎兎】喧嘩のあとの…
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些細な事で虎徹さんと喧嘩した。



事の始まりは2時間前。
今日はスポンサーのパーティーがあって僕たち2人も招待された。

いつものようにそういう事が苦手な虎徹さんは挨拶もそこそこにバルコニーに避難した。

…全くあの人は…

いつもの事だと呆れながらも僕は目の前の企業オーナーやらオーナー夫人、挙句の果てにはその娘まで…
正直早く帰りたいと心の中で呟いて僕は虎徹さんの分まで頑張って接待したのだ。

それなのにあの人は…バルコニーで女性の頬に手を添えていた。
いや、僕からはそう見えたんだ。

…そのくらいで嫉妬するなんて心が狭いと笑われるだろうか?
でも…あの人に関してはどうも心が狭くなるらしい。

だから話をしている人たちに笑って断りを入れ、虎徹さんとその女がいるバルコニーへ向かった。

「何してるんですかタイガーさん?スポンサーが呼んでますよ?」

僕が声を掛けると慌てたように虎徹さんとその女は離れた。
女はそのまま顔を赤くして小走りで去っていく。
それを横目で見てから虎徹さんを見た。
頬をポリポリと掻いて、

「あ〜…今行く…」

何ちょっと赤くなってんですか?
やっぱり貴方、男の僕なんかよりさっきの女の方がいいんですか?

虎徹さんがゆっくりと僕の横を通り過ぎようとした時、僕は咄嗟に虎徹さんの腕を掴んだ。

「…嘘ですよ?」

「は?」

「スポンサーなんて呼んでません…」

「え?は?なんで?」

「…すみませんね…お邪魔したみたいで…」

「別に邪魔とか思ってねぇよ」

「あんなに綺麗な女性と楽しげに話していたじゃないですか?僕に構わずあの女性を追っかけて頂いて構いませんよ、ほら!」

掴んでいた腕を離して僕は笑う。

「なに言ってんだよバニー?」

「あ、僕はもう疲れたのでロイズさんに言って帰らせて頂きます。では…」

僕は踵を返して立ち去ろうとした。

「ちょっと待てよ!」

虎徹さんが僕の腕を掴んだ。
それを咄嗟に払い除け、そのまま歩きだした。

「おいっ!バニー!!」

後ろで虎徹さんが僕を呼びとめる声がしたけど僕はその声を無視して上着のポケットから携帯を取り出してロイズさんへ連絡した。



それが2時間前の出来事。
僕はパーティー会場を後にして真っ直ぐ家に帰る気になれず、1人ゴールドの街を歩いていた。
ブロンズやシルバーとは違い、あまり人がいない。
ポツリポツリとカップルが公園でいちゃついているくらいだ。

…羨ましくなんかない…隣にあの人がいないだけで…寂しいなんて…

公園のベンチに座って俯く。
自分を抱きしめるように両手で肩を抱く。

「…虎徹さん…」

どうしてあんな風に言ってしまったんだろう?

あの時は頭に血が上ってしまってあの人の言い分も聞かないまま帰ってきてしまった。
あの人の手を振り払ってまで…
でも…あんなの見せつけられて冷静でいられるほど僕は大人じゃない。
普通に話しをしているだけなら何故あんなに密着していたんだ?
あの女の頬に手を添えたりなんかして…
女の顔は虎徹さんの背中で見えなかったけど絶対顔を赤くしていたに違いない!

「……はぁ〜…」

頭の中でさっきの光景が繰り返し流れる。

「…帰ろう…」

頭を振って重い腰を上げる。
誰もいない僕の部屋へ…



マンションの前で見覚えのある人影を見つけた。

…っ?!

「…虎徹…さん…」

「バニー!!」

立ち尽くした僕に虎徹さんが駆け寄ってきた。
虎徹さんを見て僕はどこかホッとした。
でも…

「…こんな所で何してるんです?先ほどの女性は…」

どうしたんです?と言い終わる前に虎徹さんが僕を抱きしめた。

「…そんな事言うなよバニー?俺がお前以外に目を向ける訳ねぇだろ?」

…えぇ…そうですね?貴方はそんな人じゃない…
そんな事は僕が一番分かっているけど…

そっと彼の胸に手を置いて距離を取った。
そしてそのままマンションへ入る。
その後を虎徹さんが付いてきた。

エレベーターに乗り込むと閉まるボタンを押すと虎徹さんの前でドアが閉まった。

1人の空間。
彼のぬくもりがまだ身体に残っている。

今日はもう会いたくない。

チーン。

あれ?2階で止まる?

表示されたパネルを見上げるとドアが開いた。

「…え?」

するとそこには虎徹さんがスケッチブックを持って立っていた。
そこには…

『俺を信じてくれ』

その一言だけが書かれている。
伺うように上目づかいで僕を見る。
僕は閉まるボタンを押した。

…何をしているんだあの人は?

真っ白になった頭でいると3階にも止まるらしくベルが鳴った。

するとそこに…

『あの女とはなんもないよ?』

思わず目を見張る。

「…貴方、何を?」

僕が声を掛ける時には自動で閉まった。

何をやってるんだ?
…まさか?

4階ー

『俺にはお前だけだ』

5階ー

『お前だけが好きなんだ』

6階ー

『愛してるよバニー』

…なんて告白だ。
あの人はこのまま僕の部屋の階まで1階ずつそうやって伝えていくっていうのか?
僕の部屋は何階あると思ってるんだ?

1階ずつの愛の言葉は僕の心に1つずつ沁み込んでいく。
途中から息を切らせながらそれでも僕が階に付く頃にはエレベーター前には到着して笑顔で迎えてくれる。

途中でネタが切れたのか、

『なんでお前こんな高いとこに住んでんの?』

とか、

『まぁ体力には自信があっからいいけどね?』

とかあったけれど…
それでも僕に信じて欲しいと好きだと愛していると精一杯伝えてくれた。
もう僕の部屋の階に付く頃には僕はポロ泣きで、エレベーターから降りた僕は虎徹さんに抱きついていた。

「…分かってくれた?俺の気持ち?」

はぁはぁと息を切らしながら僕を抱きとめて耳元で囁く。
僕はそれを虎徹さんの腕の中でうんうんと頷くしか出来なかった。





ひとしきり泣いた僕を虎徹さんは支えるように抱き部屋の中へと入った。


「バニー、大丈夫か?」

「…えぇ…」

「バニー…あの女とはほんとになんもねぇよ?」

「…分かってます…でも」

「でも?」

どうしても気になる事がある。
僕は思い切って聞いてみる事にした。

「……どうしてあの女性の頬に…触れていたんですか?」

「はぁ?触れてねぇよ??」

「いえ、触れてました。僕見ましたもん」

「あ〜…え〜っと〜」

本当に覚えがないのか指をこめかみに当て考えている。
そして、

「あっ?!あん時か〜!!あれな?あの女が"目にゴミが入った"とか言うから見てやってたんだ!」

「は?」

「いや〜参ったよ〜目ん中見てもなんもねぇしさ〜なんもねぇって言ってんのに良く見てくれってしつこくてさ〜」

ポリポリと頬を掻いて困ったように笑った。

…あの女…完全に虎徹さんに気があったんじゃないか!

またあの時の光景が頭の中に蘇る。
でも目の前の虎徹さんはそんな僕を優しく微笑んでいた。

「…なんです?」

「なんか嬉しくってさ〜!バニーちゃんがヤキモチ妬いてくれたってさ」

「そりゃ妬きますよ?当たり前でしょ?」

きっと顔が赤いに違いない。

「バニーちゃんかわいい!」

虎徹さんはニカッと笑って僕を抱きしめてキスをした。

キスをされながら僕は……あの女に釘を刺しておかなければと心に誓った……


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