BL小説(TIGER&BUNNY編2)

□【虎兎】10年目の結婚記念日
1ページ/2ページ


最近虎徹さんの帰りが遅い。
ヒーローを辞めた虎徹さんは俳優をしている僕と違ってわりと決まった時間には帰っている。
それなのに結婚記念日を1週間後に控えたある日から帰ってくる時間が遅くなっている。
ここ2日はどうやら年末と言う事もあって忘年会だったらしい。

…そのわりにはお酒の匂いがしないけれど…

だから虎徹さんの行動に少し疑問を抱いていた。





「ちょっとバーナビー!」

今日は雑誌の撮影と対談インタビューでスタジオにいる。
今日の対談相手のブルーローズこと、カリーナが小声で僕に話しかけてきた。

「…どうかしました?」

「アンタ、この後仕事あるの?」

「え?いえ。今日はこれで終わりですよ?」

「じゃあ、この後付き合いなさいよ!」

いつもなら虎徹さんが家で待っているからそういった付き合いはしないけれど、今日はまだ家に帰りたくないと思った。
…もし、また虎徹さんがいなかったら…
それだけで落ち込みそうだったから…

「いいですよ?じゃあ撮影も対談もすぐ終わらせましょう」

不自然にならないように笑顔で答えた。




20代も後半になったカリーナはこの10年で急激に大人の女性へと変貌した。
女性特有の色気も備わってますます美しくなっている。
彼女とはヒーロー時代、あまり話をしなかったが僕が虎徹さんと結婚するとヒーロー達に報告をしてからメールをする仲になった。
そして、何年もしてからカリーナから

『実はタイガーが好きだったの私』

と告白された時は驚いたな。
いや、気づかなかった訳じゃない。
まさかその事を僕に報告するとは思わなかったのだ。

今思えば、あの告白をする事によって彼女なりにケジメをつけたかったのかもしれない。



僕らは仕事を終えて、カリーナがいつも使っている会員制のラウンジへ向かった。
僕はもちろん顔バレしているし、カリーナも僕と一緒にいる所を誰かに見られたくないらしい。

最近片思いしている彼に誤解されたくないと言って。

ちょっと照れたように笑う彼女を見て、僕はホッとしたんだ。


ラウンジへ入るとオーナーらしき人物と挨拶を交わし、奥のVIPルームへと促された。
ソファに腰を下ろすと適当にオーダーをしたカリーナは改めて僕を見た。

「どうしたんです?何か話があったんでしょ?」

「今はもうプライベートなんだから敬語はナシよ?」

「ふふ、そうだったね」

僕がヒーローではなくなってからカリーナはプライベートでの敬語を禁止した。
元々僕の方が年上だし、いつまでも敬語だと親しくなったかどうか分からないからという理由だった。

「で?話って?」

「ま、まぁ、オーダーした物がきてからでいいでしょ?」

どこかはっきりしない態度を示すカリーナに僕は首を傾げた。

しばらく食事を楽しんだ僕は不意にカリーナが僕を見つめている事に気付いた。
ん?と首を傾げて微笑んで問いかけてみるとカリーナは視線を泳がせて俯いたが意を決したように顔を上げる。

「ねぇバーナビー。タイガーってちゃんと家に帰ってきてる?」

「え?」

「…あの、私ね…実は見ちゃったんだ…昨日タイガーが……女の人と親しく歩いているとこ…」

「……」


カリーナの話はこうだ。
昨日は今度のクリスマスに開かれるヒーローイベントの打ち合わせがあってシルバーのスタジオにいた。
その帰り、スタッフが呼んだタクシーに乗り込もうとした時に虎徹さんを見かけて声を掛けようとしたらしい。
だが声は掛けれなかったと。
楽しそうに笑い合いながら女性と話していたから。
そのままその2人は人の波へと消えて行ったみたいだ。


カリーナの話を聞いて僕は即座に浮気だと思った。
彼女には、アカデミーの同僚とご飯でも食べに行ったんだろう。と、なんでもないような顔をして笑って答えた。

それから先は何を話したかは覚えていない。
カリーナも僕の異変に気付いているはずなのに敢えて気づかぬフリをしてくれた。



そこそこの時間になって僕とカリーナは店を後にした。
カリーナをタクシーまで見送ってから僕は家までの道を歩いて帰る事にした。

…10時か…
もう帰っている頃だろうか?

出来れば今は顔を合わせたくはない…
まだ頭の中がぐちゃぐちゃだ。

虎徹さんが浮気…?
結婚して10年だというのに…女性に彼を取られる…?

冗談じゃない!
もう彼は僕にとって身体の一部になっているのに…
虎徹さんはずっと僕の傍にいてくれるって信じていたのに…何故今…?
もうすぐ10年の記念日で僕なりに2人の結婚を祝い、これからの人生もずっと2人で過ごそうと思っていたのに…

そんな区切りの年に…


……やはり女性の柔らかさを求めたの?
年を追うごとに衰えていく僕の身体では…彼を繋ぎとめられないって事…?

付き合いだした頃からその事はずっと頭の中にあった。
僕はどう考えても女性のそれとは違う。
いずれ僕の元を離れてしまうんじゃないかと…不安で…
でも…その不安をいつも彼は拭い去ってくれていた。


『お前がいいんだ俺は』

『俺はお前が好きなんだよバニー』

『バニー…愛してる…』


言葉だけじゃなく行動でも示してくれて…彼の愛を身体に刻み込んでくれた…


それなのに…
帰りが遅い日が続くだけで不安になった…
その上、カリーナからの話…


僕は貴方を信じたいのに…胸が張り裂けそうで…息も出来ない…


………もし本当に虎徹さんが浮気をしていたら……僕はどうすればいいんだろう…?

そんなぐちゃぐちゃな思考のまま、気が付くと家の前についていた。

あ…灯りが付いている…
虎徹さんが帰ってるんだ…

それだけで嬉しくなった僕は急いで家の中へと走り出した。


「おぅ!おかえりバニー!」

リビングで寛いでいる虎徹さんが僕に微笑みかける。
僕は駆け寄って虎徹さんに抱きついた。

「どわっ?!」

勢い余って虎徹さんとともに床へと倒れ込んだ。

「いててて…」

そう言いながらも僕を抱きしめる。

「どした?急に抱きついてきてビックリすんだろ?」

いつも通りの優しい声が僕の耳を擽る。

僕を優しく抱きとめているのに…貴方は…他の女性に目を向けているの…?

すぐ傍で彼の体温を感じているのに心は遠い気がした。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ