BL小説(TIGER&BUNNY編2)

□【虎兎】聖夜までの7日間
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12月18日。

その日は毎年恒例のヒーローズイベントの打ち合わせだった。
僕と虎徹さんは他の取材があって遅れて現場入り。

今年のイベントは僕と虎徹さんがMCを担当。
だから僕がしっかり段取りを覚えておかなければならない。
虎徹さんに任せるととんどもない事になるから。


「ここでブルーローズさんを呼びこんで下さい。少しだけトークしてタイガーさんとバーナビーさんは下手に掃けて貰います」

「はい」

「下手って?」

「僕らから見て右側ですよタイガーさん?」

「おっ、そっか。ありがとなバニー」

ほらね?
こんな調子なものだから僕がしっかりしなくちゃならない。

「後、ファンに向けてサプライズをしようと思ってます。ファンの方皆さんは無理ですが抽選で各ヒーローごとに5名ずつ、そのヒーローからのクリスマスプレゼントを手渡しで渡して頂きたいので各ヒーローの方々にはそれぞれプレゼントを5つずつ用意をして欲しいんです」

「は?!自分達で用意すんのかよ??」

「その方がファンの方は喜びますから。最初はこちらで用意した物をと思ったんですけど…それじゃあありきたりでしょ?」

スタッフの方が困ったように笑う。

「とりあえず前日の12月22日の最終リハーサルの時までに用意しておいて下さい」

これで打ち合わせは終わりだとスタッフさんが資料を抱えて会議室から出て行った。

「自分達でプレゼントって…何を選べばいいのか分からないよ〜」

「そうだね!全くその通りだよ!」

「だいたい誰に当たるか分かんねぇんじゃあ酒とかも無理だろうしな〜」

「そうねぇ〜、男か女か分からないし〜?どんなものがいいのか悩むわね〜?」

確かにそうだ。
誰に当たるか分からない以上、どういったものがいいのか分からない。
まぁ僕は最悪、自分の写真集があるからそれにサインとメッセージを添えればいいかもしれないけれど…

するとずっと腕を組んで考え込んでいた虎徹さんが口をついた。

「そのサプライズさ〜…皆でなんかしねぇ?」


…………………………


「「「「「「「はあぁぁぁ??!!!」」」」」」」






12月19日。

虎徹さんのとんでもないアイディアを元にヒーローズで来年のカレンダーを制作する事となった。
といっても撮影のスタッフやら印刷やらはすべてファイヤーエンブレムが段取りをしてくれた。


ファンにサプライズプレゼントもいいが僕は個人的に悩んでいた。

虎徹さんにあげるプレゼント…今年は何にしようか?

これまでお酒だったりネクタイだったり虎徹さんが喜びそうな物を渡してきたつもりだけれど…それ以上にあの人からのプレゼントの方が嬉しかった。
いつも僕を驚かせてくれるあの人に勝ちたい。
勝ち負けではない事は分かっているけど…やられっぱなしで悔しいのも僕の本音。

だから今年は僕がロマンティックなクリスマスを演出しようと思っている。


…それなのに…


「ボンジュール、ヒーロー!」

アニエスさんのコールに僕は眉をピクリと動かした。
心の中で舌打ちをしトランスポーターへと急ぐ。

「バニー、きっげんわりぃなぁ〜」

すでにアンダースーツに着替えていた虎徹さんが無言の僕に声を掛ける。
着替えながら僕の様子を見て首を傾げている。

「…別に…」

「バニーちゃん?」

アンダースーツに着替え終わり振り向くと虎徹さんが思いの外近くにいて驚く。

…ちゅっ

「これで機嫌直せ。な?」

ニカッと白い歯を見せて笑う彼に僕は思わず微笑んだ。


彼のキスだけで機嫌を直した僕はいつも以上に迅速な犯人確保に成功した。
ポイントも稼いだし虎徹さんも救助ポイントもついたし何より僕の隣で笑ってくれている。

なんて単純なんだろう?





12月20日。

僕たちの撮影が始まった。
僕たち2人のショットとそれぞれのショットが一枚ずつ。
ちなみに僕の担当する月は9.10月。

ちょうど僕の誕生日が重なっている。
多分ファイヤーエンブレムが計らってくれたんだろう。

白いタキシードに身を包み、スカイラウンジのセットに入った僕は椅子に腰を下ろした。
シャンパングラスを片手にカメラ目線で微笑む。
数十枚の写真を取り、撮影が終わると次は虎徹さんの番だ。

ちなみに虎徹さんの担当は7.8月。
なので水着にアロハシャツを着て、髪は少し水気を浴びさせてから後に撫で上げている。
アイパッチから覗く琥珀色の瞳に僕はゾクゾクした。

こんな寒い時期に水着を着るはめになって虎徹さんは何やら文句を言っているがスタジオ内は快適そのもの。
服を着ている僕やスタッフにしてみれば熱すぎるくらいで…

監督からの指示になんとか応えていたがやはりテイクを重ねていた。

「だー!疲れた〜」

「お疲れ様です」

「おぉバニーもお疲れ〜」

珈琲の入った紙コップを手渡すと笑顔で受け取り一気に飲み干した。

「これから2人のショットが残ってますよ?」

「げー…またかよ…」

「貴方が提案した事でしょ?文句を言わないで下さい?」

「へいへ〜い」


僕らの担当する1.2月。
そこではさっきの夏真っ盛りの雰囲気とは違い新年を迎える正装に着替えた。
僕は黒のタキシードで虎徹さんは和服。

…折紙先輩が羨ましがりそうだな…

「な〜に笑ってんだよ〜バニーちゃん?」

「あ、虎徹さんの今の格好…折紙先輩が羨ましがりそうだなって」

「あぁ…そだな!」

袖を広げて笑う虎徹さんに僕も頬を緩める。

「さぁ、行きますよ虎徹さん?」

「そだな、バニーちゃん」





12月21日。

雑務をしつつ、今日こそはホテルの部屋をネットで予約をしようと思った僕はどこのホテルがいいのか検索をしていた。
しかし、その肝心な部屋が押さえられない。

よく考えてみたらそうだ。
クリスマスイブに予約したいのにこんな3日前から予約しようだなんて…僕が甘かった。

2時間ほど検索をし、結局どこも予約出来なかった。

「なぁバニー?そろそろ昼飯行こうぜ?」

ランチタイムを少し過ぎていた事に気付かなかった僕は虎徹さんに声を掛けられた。

「…そうですね」

「なんか元気ねぇな〜」

「そんな事ないですよ?」

「そ?」

あまり気にしない素振りで虎徹さんはチェアの背もたれに背筋を伸ばす。

「で?どこ食いに行く?」

[そうですね…前に行った和食はどうです?」

「おっ!いいね〜」

僕らは席を立ち、女史に断りを入れてからオフィスを後にした。


少し歩くとその和食の店はある。
とても落ち着いた内装でほのかにヒノキの香りがして落ち着く。

テーブル席は軽く仕切りがあって顔出しをしている僕でも落ち着いて食事が出来る良い場所だ。


「今日はな〜にすっかな〜?」

鼻歌まじりにメニューを見ている虎徹さん。
僕はというともう決まっている。
いつもこの店に来たら食べる物。

「バニーはいつもの?」

「えぇ。カツドンとウドンのセットを」

「じゃあ〜俺は〜カツとじ定食にすっかな〜」

おばちゃ〜んと手を上げて店員さんを呼ぶと虎徹さんはオーダーした。


楽しい食事をしながら僕の頭の片隅にはクリスマスの最高の演出を考えていた。

日系だからやはり和食をもてなした方がいいんだろうか?
それともスマートにスカイラウンジでロマンティックな雰囲気を出した方がいいんだろうか?

「なぁバニー?」

ぐるぐるの思考の中、虎徹さんの声で我に返った。

「はい?」

「今年のクリスマスイブな?お前ん宅行くから」

「……はい?」

「だ〜か〜ら〜24日お前ん宅で過ごそうぜって!」

ミソスープを飲みながら下手くそなウィンクをして笑う虎徹さん。
釣られて微笑み僕は頷いた。






12月22日。

イベントのリハーサル最終日。
僕は事前に取材が入っていてリハーサルには遅れて参加。

リハーサルに向かう途中で僕は調べ物をしたくて図書館へ立ち寄った。
ネットで僕の部屋の窓から見える飛行船の会社。

クリスマスイブを僕の部屋で過ごすならあの飛行船で虎徹さんへのメッセージを載せて貰おうと思って。

こんな個人的な事を受けて貰えるか分からないけれど何か一つくらいあの人に伝えたい。

飛行船の会社へ連絡を取り、バーナビー・ブルックスJr.とは名乗らず日にちとメッセージを伝えた。
あの飛行船を使って愛の言葉を載せる事は多いらしく相手は快く応じてくれた。

ひとまず安心した僕は最終リハーサルが行われる会場へと向かった。

僕が着いた頃にちょうど休憩をしていたネイサンがヒーローズカレンダーが出来上がったとサンプルを持ってきていた。
スタッフと僕らで確認。

「どうしてタイガーとバーナビーで3枚も撮ってるの?!」

ブルーローズがぺらぺらとめくりながら文句を言った。

「しかも何?!タ、タイガーったらこんなっ、水着着ちゃって…」

と頬を赤らめて視線を逸らしている。

「ん〜?だってしょ〜がねぇだろ〜?俺夏担当だったんだからさ〜」

ブルーローズの後ろから唇を尖らせて、寒かったんだぞ〜!なんて対抗している。
後ろから声を掛けられたブルーローズはそれ以上口を開かず黙って俯いた。

「それにしてもお前がなんでこの枠にいる訳??」

11月12月を担当したファイヤーエンブレムを指さす。

「あら〜だってあたしたち女子組だもん!」

そう。
11月12月はブルーローズ、ドラゴンキッド、ファイヤーエンブレムで女性用のサンタの格好をしている。
女性2人は可愛らしいが…ファイヤーエンブレムはどうなんだろう?
一番色気のあるサンタの衣装を身につけている。

「いやいや、お前女子じゃねぇから!なんならおっさんだから!」

「やかましいっ!」

「でも折紙先輩とバイソンさんというのも珍しい組み合わせですよね?」

話を逸らせようと5月6月担当のページをめくりながら折紙先輩を見た。

「あの鎧って結構重かったぜ?折紙も着たけど潰れんじゃねぇかってヒヤヒヤしたぞ?」

「ぼ、僕だって…男ですから…それに大好きな日本の鎧だったので僕は嬉しかったです!」

「良かったな折紙」

ファイヤーエンブレムの攻撃から逃げてきた虎徹さんが折紙先輩の頭を撫でる。
嬉しそうに笑って応える先輩。

「でもスカイハイさんのは普通のタキシードでいつものポーズだよね?」

ドラゴンキッドがひとつ前の3月4月のページをめくる。

「そうよね?ねぇスカイハイ?これはどういうコンセプトだったの?」

ドラゴンキッドの隣で腕を組み不思議に思ったブルーローズがスカイハイさんに聞いた。
すると彼はいつもの爽やかな笑顔をした。

「それはね!入学するファンの為だ!おめでとう!そして、おめでとう!」

いつものポーズを取りながらスカイハイは元気よく答えた。


………

一瞬にして僕達は言葉を失った。



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