BL小説(TIGER&BUNNY編2)

□【虎兎】時を超えてもきっと君を…
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「…さんっ!…つさんっ!しっかりして下さいっ!!」

…誰だ?俺を呼ぶのは…?

金色のふわふわした髪とエメラルドの瞳からポロポロと零れる涙の滴。

ごめんな?…俺、もうダメみてぇだ…

「生きて……虎徹さん…」








いつもよりもクリアだった夢。
起きると俺はいつも涙を流している。

「あ〜…最近よく見るなぁ〜…」

上半身を起こして頭をポリポリ。
欠伸をしてベッドを降りた。
ベッドサイドの時計に視線を向けると出掛ける時間の1時間前。

「今日初日だもんな〜」

寝室を出て洗面台に向かい、歯磨きをして台所へ。
珈琲メーカーに豆を入れ、ドリップ。
ドアポストから新聞を取り出すとテーブルについてペラペラとめくる。
珈琲のいい匂いが部屋中に漂う。

珈琲メーカーからマグに珈琲を入れてタバコを一本吸う。

「一服したら着替えるか」


俺は鏑木虎徹。28歳。
職業、高校の教師。
今年の3月まで地元の高校の教師をしていて今日から東京の学校に赴任。
初めての東京での仕事にちょっと緊張して早起きしてしまった。

でも1人じゃない。
地元から一緒に赴任した同級生の友恵がいる。

雨宮友恵とは高校ん時の同級生。
アイツは学級委員長、俺はやんちゃ坊主。
そんな2人の共通点と言えば…ヒーロー好き。
高校生でヒーロー好きとか周りの連中はガキだなんだと冷やかしやがるけど好きなもんは好き!
それは譲れないんだから仕方がねぇ。
友恵はそこに共感してくれた唯一の同士だ。

その友恵と同じ東京の学校に赴任するからちっとは落ち着いてるつもりだったけど…

「…よし!いっちょ、ワイルドに吼えるか!」




今日から働く高校、シュテルン高校は都内でも有名な進学校で生徒の2/3は外人さんがいる。
まぁ外人だっつっても日本語ペラペラらしいけど。
俺はそのシュテルン高校へ向かうべく、最寄りの駅へと急いだ。

やっぱこの時間は人が多い。
学生やらサラリーマンやらで駅のホームはごった返している。
ホームに電車が到着して乗り込むと後ろから押されるように中へ雪崩れ込んだ。

…イテッ!足っ、足踏まれた?!
誰だよチクショー!

電車に揺られながら学校の最寄り駅まで我慢。
ふと斜め前にいるヤツの様子が変なのに気づいた。

…お?な〜んかもぞもぞしてんな〜?

斜め前にいるヤツがやたら動く。
人に紛れてるから動きづらそうにしているけど、なんか、逃げたいらしい。

「ハァ…ハァ…」

隣からハゲたおっさんがやたら洗い息をして前にいるヤツにくっついていた。

わぁ…きもっ…

イライラした俺は隣のハゲたおっさんを睨んで手を下へ移動させる。
下の方で前の男の尻に触ってるおっさんの手を掴んだ。

「…何やってんのアンタ?」

なるべく小さい声でおっさんの耳元でドスを効かせた。
おっさんは掴まれた事と隣の俺から言われた事で声にならない悲鳴を上げた。

降りる駅じゃなかったがおっさんの手を掴んだままホームに降りるとおっさんは急に暴れ出した。

「俺が何したってんだ?!」

「何したって分かってんだろ?とりあえず駅長室行くぜ?」

「な、何を勘違いしているのかは知らんがそいつは男じゃないかっ!」

「え?!」

おっさんが指差す方へ向くとそこには驚いた顔をした金髪のブレザーの制服を着た”男”が立っていた。

…あれ?こいつ…どっかで…?

学生は俺の視線に気が付き、咳払いをしながらクイッと眼鏡の縁を上げた。
そして、

「あなたが僕のお尻に触っていたんですね?」

冷たい視線を投げつけ言葉を吐き捨てる。

「おっ、お前みたいな男の尻なんか触る訳ないだろう!!」

学生に向かってギャーギャーと騒ぐおっさん。
俺はこのままじゃ埒が明かないと踏んでそのまま強引に駅長室へと連れて行った。
触られた学生も一緒についてきた。


駅長室で軽い取り調べを受けた俺は再びホームへと上がる。

しかし…世の中には変わった男もいるもんだな〜…

次の電車が来るまで俺はさっき会った学生が頭から離れなかった。








「虎徹さん?起きて下さい?」

彼の声が聞こえてきて俺は目を開けた。

「…ぃ?」

「……おはよう、ございます…虎徹さん」

「…ん、はよ…」

目の前にエメラルドの瞳からキラキラした物が俺の頬に降ってきたと思ったら彼の涙だった。

「…なんで…お前、泣いてんの…?」

普通に喋ってるつもりが掠れてる俺の声。
しゃべって分かったけど…身体中が痛い。

「…貴方、ずっと…眠っていて…もう、ずっと……だから、だから…」

あぁ…そんなに泣いたらそのキラッキラの目、おっこちるぜ?

彼の涙を拭いてやりたくて手を動かそうとした。
でも、動かない。
そう言えば身体全体が動かねぇな。
でも、これだけは…これだけは彼に言っとかねぇと…

「…ばにぃ…おれ、生まれ変わっても…ぜってぇお前、見つける、から…」

「…何言ってるんですか虎徹さん…?…ぼく、ドクター呼んできます…」

メガネを外して、乱暴に服の袖で涙を拭った後、またメガネを掛けると彼は目を真っ赤にしながら微笑んで病室を後にした。

俺はまだ彼に傍にいて欲しかったけど引き留める事も出来ず、ボーッと見送った。

なぁ…ニー…?
俺さ、お前の顔見たら…ちょっとホッとしたのか眠くなっちまったよ…?
…もぅ少し…もう少し、だけ…お前の顔、見たか、た…
……おれ、の、リル……







「…だっ?!」

気が付くと目の前には大空が広がっていた。
上体を起こし、周りを見渡す。

「…あ、俺、屋上にいたんだった…」

電車で痴漢を捕まえた後、俺は学校に向かった。
駅に着いてから猛ダッシュしたけど…遅刻した。

体育館に入った時、全教師、全生徒に見られてしまい、俺はへらへら笑いながら友恵もいる新人教師の列へと向かった。
隣で友恵が呆れた顔をして、

「バカ」

と呟く。

俺は赴任早々、とんでもないドジをやらかした。


入学式が終わって職員室に行くと教頭のロイズ先生に説教されて、校長のベン先生には笑われた。

「…タバコ吸いに来たんだったな、俺…」

屋上に上がると凄い天気良くてポカポカで眠くなって…
タバコも吸わずに寝ちまった。
流れてる涙を拭ってから、

「…だけど…」

改めてタバコを吸おうと一本取り出し、火を付ける。
煙を吐きながらため息。

「…自分ち以外であの夢見るの初めてだな〜」

大空を見上げてまた吸い込んだ煙を吐き出した。

それにしても…夢の中の"俺"は"彼"を泣かせてたなぁ。

…そう言えば今朝会ったあの金髪の学生。
夢の中の"彼"に似てた気がする。
いや、覚えているのはキラキラした金色の髪とキラキラしたエメラルドの瞳だけだけどな?

「…やべぇよな〜…夢に出てきたヤツって好きになっちまう方なんだよな〜…」

内ポケットから携帯灰皿を取り出してタバコをもみ消す。
両手をぐっと伸ばして背筋を伸ばした。

「鏑木先生?」

俺を呼ぶ声がして振り返ると金髪の学生が立っていた。

「お、お前っ、今朝の…?!」

「…ここの先生だったんですね?」

今朝話した雰囲気とは随分違う。
いかにも優等生でクールな空気を漂わせている。

「…まさか貴方と会えるなんて思っていませんでした」

静かに俺の方に近づくとソイツは俺の目の前に立ち、微笑む。

「…虎徹さん…」

そう言って俺に抱きついてきた。

え?えぇ?!なんで??つーか、"虎徹さん"って…なんで??あ、そっか。俺さっき挨拶ん時に名前名乗ったもんな?…いやいやいやそうじゃなくて!可笑しいだろう?ほとんど初対面のこいつになんでそんな呼び方されなきゃならねぇんだ?!

俺はパニくりながらもそいつを引き剥がした。

「ちょっ、お前、なんなの??」

「虎徹さん?」

「だーーっ!!だからなんでお前に"虎徹さん"とか呼ばれなきゃなんないの??俺お前と会ったの今朝だけだよ??」

「……」

するとそいつは脱力したように俯く。

「…ちょ、ちょっと…?」

「……嘘つき……」

「へ?」

そいつはキッと俺を睨むと踵を返してその場を去って行った。
綺麗なエメラルドの瞳が潤んでいるを見て俺はその場を動けなかった。


バーナビー・ブルックスJr.
親は総合病院を経営しているとてつもないセレブ。
その跡取り息子のバーナビーもいずれは医者になるらしい。
成績優秀で運動神経抜群、その上あのイケメンだ。
女が放っておく訳がない。
入学早々ファンクラブが出来るほどだ。
でも肝心のバーナビーは女に興味がないのか全く誰にも懐きもしない。



そして、なんの因果か俺はバーナビーのクラスの副担任になっていた。



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