BL小説(TIGER&BUNNY編3)

□【虎兎】時には虎も牙をむく
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「これでずっと一緒。素敵でしょ?」

男はいやに機嫌のいい顔をして僕に微笑んだ。




どうしてこんな事に…


意識が朦朧とする中、僕は薄暗い天井を見つめていた。





事の始まりは昨日の夜。
新しいスポンサーとの会食があって僕だけゴールドのホテルラウンジにいた。
虎徹さんには終わったら連絡しますとメールしていて、

『寝ないで待ってる』

と返信も来ていた。


新しいスポンサーだというこの男は最近上昇している会社の会長の息子で現・社長。
歳は虎徹さんと変わらないくらい。
物腰が柔らかく僕の中では好印象だった。

時間もそこそこに帰ろうとしたらその男がもう少し飲みませんか?と誘ってきた。
僕としては早く虎徹さんの家へ向かいたかったがもう少し確実に仕事を得る為、少しだけならとそのラウンジを後にした。

しばらくゴールドの街を歩き、男が馴染みにしているというバーに入った。
そのバーは高級感溢れる造りで天井も高いが間接照明で中々雰囲気の良い店だった。
受付で男は紳士的に対応し奥のVIPルームへと案内された。


座り心地のいいソファに腰を下ろすと男は距離を詰めてきた。
あまり人と近くで接する事が苦手な僕は心の中で舌打ちをしつつ笑顔で対応をした。

「バーナビーは僕にとって理想の人なんですよ?」

「僕なんて大した事ないですよ?」

「何を仰っているんです?あなたはとても純粋な方なんだと僕は知っています」

「…はぁ」

何を言っているんだ?僕の何を知っていると言うんだ?!

「…ただ、あなたが相棒のせいでだんだん汚れていくと思うと僕は悲しくて仕方がないです…」

「え?」

「だからバーナビー…君はもう僕のものになるしかないんだ…それが君の為…」

「ちょっ、ちょっと…あの…」

だんだんと僕に詰め寄ってくる男の目がどこか危な気で僕の背筋が凍りついた。

…え?…なんだ、これ…??

不意に意識がボーっとし始めて…

「さぁ…僕と一緒に…いましょう…」

だ、誰が…貴様なん、か…と…

男の顔がやけに嫌な笑いをしていた…





徐々に意識がはっきりすると色んな事が分かった。

僕は両手両足をそれぞれ縛られている。
しかも薬を飲まされたのか身体が動かない。
しかも上半身の服がない。上だけ脱がされたようだ。
それにどこかのホテルだろう。
綺麗な風景画がある。多分スィートルームだ。
という事はゴールド。
大きいだろう窓にはカーテンが引かれていて位置は確認できない。
だがカーテンの隙間から陽が昇っているだろう事は分かる。
というか、眼鏡がないせいか視界がはっきりしない。

「起きたのかいバーナビー?」

「…えぇ。これ、外して貰えませんか?」

「外してしまうと君は逃げるでしょ?」

「……ではせめて眼鏡を」

「あぁ。君は視力が悪かったね?」

うっかりしていたとでも言うように笑い、上着のポケットから眼鏡を取り出すと身動きの取れない僕に眼鏡を掛けた。

ベッドの上で縛られている僕をベッドの端に腰を掛けて見下ろしている男。

…こんな顔だったかな?

好印象だったのに今、僕の目の前にいる男はどこかおかしい。
怪しげな雰囲気で僕を見ているようで見ていないような…そんな危うさ…

「あぁ…やはり君は美しい…」

僕の髪に手を絡ませてうっとりしている。

…触るな、気持ち悪い!

思いっきり睨んでやるが男には通用していないみたいで、

「…このまま僕のものになって、いつまでも美しいままの君でいて欲しい…」

何を勝手な事を…!

男の手が髪からスーッと顔へ移動した。
その指が気持ち悪く僕の頬を撫でる。

虫唾が走る。触れないでくれ。
そうやって触れていいのは虎徹さんだけだ…

頬を撫でてから唇へ、そこを執拗に触れてはため息を漏らす。

「柔らかいんですね…」

口に指を差し入れられ、涙が零れそうになる。
凄い力で指を口の中にねじ込まれて吐きそうになった。
抵抗しようと口の中にあの男の指を噛んでやった。
咄嗟に指を引き抜いた男はその指を見せつける様に舐め、

「…酷い事をしますね…」

不敵に笑うと強い力で顎を取られた。

「…ぐっ…?!」

「そんな悪い口は塞いでしまいましょう…」

男の顔が近づいて僕の唇を塞いだ。

「…んっ…んんっ…」

ねっとりと男の舌が口内に侵入し這いずりまわる。

…気持ち悪い…男の荒い息も唇も舌も…何もかもが気持ち悪い…



キンコーン!

呼び出し音が鳴り、男はようやく唇を離した。
舌打ちをし、ベッドルームから出て行った。

…今の内になんとかしなくては…

力の入らない身体で無理矢理動かそうとするが上手く出来ない。

まだ薬が効いているのか?
このままではあの男に…くそっ…

………虎徹さん…助けて…

意識が朦朧とし始めた時、入り口の方から衝撃音が響いた。
しばらくして、

「バニー!!」

愛しい人の叫び声。

虎徹さん…ここです…虎徹さん…!

ドタドタと走り回る音がこちらに近づく。
バンッと扉が開かれ愛しい彼の姿が見えた。

…虎、徹さ、ん…

スッと緊張が解けて微笑む。

「バニー!大丈夫か?!」

急いでベッドに駆け寄り、僕を縛っていた縄を解くと僕の身体を抱き起した。

「…虎てつ、さん…」

「バニー…今は喋るな…」

ギュッと抱きしめてくれた彼の腕が少しだけ震えてる。

「…ごめ、んなさ、い…ぼく、が…迂闊で、した…」

「バニー…」

「…あのおとこ、は…?」

「入り口で倒した」

「…なぜ、ここだと…?」

「帰りが遅いっつーか、もう朝なのに帰って来ねぇから斎藤さんに頼んでこれのGPSで場所を調べたんだ…」

僕の手首にあるPDAを見せながら泣きそうな顔で微笑んだ。

「お前…ホテルの部屋にいるから…俺…」

あぁ…泣かないで…

取られた手首をそのままにそっと虎徹さんの頬へ手を伸ばした。
頬に伝わる涙を指で拭う。

「…後でロイズさんに連絡してあのスポンサーの野郎の事報告しよう。でもその前に…」

虎徹さんの腕が僕のひざ裏に差し込まれてそのまま抱き上げながら立ち上がった。

「バニーは病院だ」

「……はぃ」





念のために病院で一通りの検査をし、薬を抜く為に入院する事になった。
もちろんヒーローの仕事も休む事になった。
虎徹さんは僕の着替えを取りに行ってくれている。
顔出しヒーローだと言う事もあり完全なる個室のベッドに横たわっている僕は窓の外を見てため息をついた。
夕陽がとても綺麗…でも僕の心は沈んでいた。
まだ身体がうまく動けない所もあるが手や足はかろうじて動くようになった。

…しかし…

「あの男…あの様子じゃあ、あのまま引くとは思えないな…」

「何心配してんだバニー?」

僕の荷物を持って虎徹さんが病室に入ってきた。

「あ、すみません…僕の着替えを取りに行って貰ったりして」

「んなの気にすんな。んで〜?何を心配してたんだ?」

荷物をサイドにあるテーブルに置きつつ、パイプ椅子を持ってベッドの側へくるとそこに椅子を設置し座った。
少しだけ顔を虎徹さんの方へ向けると、

「…あのスポンサー…あのまま引き下がるとは思えなくて…」

「それなら心配するな」

「え?」

「ロイズさんに連絡したらあのスポンサーとは手を切るってよ。会社としてもうちの大事なヒーローを傷つけたってんで向こうの会社を訴えるっつって躍起になってたぞ?」

「…そう、ですか…」

「ま、あの会社もあの野郎も社会復帰出来ねぇんじゃねぇかな〜」

「えっ?」

「ロイズさんやベンさんが弁護士雇って徹底的にやるって言ってたし…俺もあん時思いっきり脅しちまったからな…」

脅しって…?!

虎徹さんらしからぬ発言に思わず目を見開いた。
すると少し慌てた顔をした虎徹さんは口を手で塞いた。
そして、その手で頬をポリポリと掻きながら

「あ…いや、だからさ…あん時ドアをバーンって開けてあの野郎が出てきて、バニーはいないって言ってたんだけど…僅かにあの野郎からバニーの匂いがしてさ…つい、カッとなって殴ったんだ」

あの時の衝撃音は虎徹さんがあの男を殴った音だったのか…
それにしても、虎徹さんが人を殴るなんて…

「で、あの野郎が俺はバニーと釣り合わないだの、バニーが汚れるだの、自分の方はバニーを美しいまま汚す事はないだのいうもんだから…」


『お前にあいつの何が分かるってんだ?!俺しかあいつの事幸せに出来ねぇだよ!これ以上あいつに近づくような事があったら100パワー使ってでも全力でお前を殺すぞ!!』


「…って言っちまった…」

「…虎徹さん…貴方…パワーは人助けの為だけに使うものだと…言っていたじゃないですか…なのに…僕の為に…」

「……あぁ…あんな風に言っちまうなんて俺の人生で初めてだったよ…自分の信条を曲げるような事…生まれて初めてだった…」

虎徹さんの顔が涙で滲んで見えない。
ゆらりとした動き僕に近づく。
ギシリとベッドの軋む音。
僕の手を握る暖かい手。

「それだけバニーが大事だって今更だけど思い知った…」

「…虎徹、さん…」

眼鏡を外され、顔が近づくと…唇に暖かいものが触れた。

あぁ…やはり貴方の唇はいい…
貴方しか許せない…僕の唇に触れる事は…貴方しか…

ゆっくりと唇から離れると額同士をつっつけた。

「…でも虎徹さん…人殺しは駄目ですよ?貴方ヒーローなんですから…」

「…ククッ…わーってるよ〜…」

「前科持ちの恋人なんて嫌です僕…」

「…なぁ…あの野郎に何された?」

「…キスされました」

するとまた優しいキスが降ってきた。

「…それだけ?」

「えぇ。それだけです…」

微笑んでみせると虎徹さんは安心したような顔をした。

「じゃあもっと消毒しとかなきゃだな」

そう言って握った手をそのままにもう片方の手で僕の項の手を差し込むとさっきより深く、甘いキスが降りてきた。



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