BL小説(TIGER&BUNNY編3)

□【虎兎】誰より好きなのに
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どうして上手くいかないんだろう?
誰より好きなのに…

つい小言を言って僕が怒ってしまった。
それを彼は拗ねたりするけれど、彼から謝ってきて、僕も本気で怒っている訳ではないから許して仲直り。
それなのに今回は彼を怒らせてしまった。

『…ちょっと田舎に帰るわ』

そう言われて2日。
本当に彼は有休を使い、故郷に帰った。

いつもなら彼の温もりを感じながら眠るのに…今日も1人、寂しくベッドに入る。

「…寒いな…」

1人寝には慣れていたはずが、彼と付き合うようになってから一緒に寝る事が当たり前になってしまったから…たまに一人で寝ると身体も心も冷えてしまう。

「…喧嘩をして、1人で寝るなんて初めてかもしれないな…」

兎のぬいぐるみを抱きしめると彼の匂いがする。
時々このぬいぐるみの取り合いをしながら結局ぬいぐるみを抱いた僕ごと抱きしめてくれて…

「…ぅ…虎徹…さ、…」

思い出すのは僕に向ける彼の優しい笑顔。
その彼が今は僕の傍にいない。
ギュッとぬいぐるみを抱きしめて、彼の名前を…泣きながら呼んだ…




今日も彼のいない1日が始まる。
朝、目覚めたら瞼が重かった。
あのまま泣いて寝てしまったから。
シャワーで目元を温めて、なんとか腫れを防ぐ。

「よし」

頬を叩いて気合いを入れて僕はオフィスへ向かった。

「おはようございます」

オフィスに着くと経理女史はすでにパソコンを起動させていた。
チラリと僕を見、挨拶。
そして、いないはずの彼の席には…

「おはよ、バニー」
「こ、虎徹さん?!」

久しぶりに会う彼。
まるで数年ぶりに会ったような感覚。
まるで変わらない笑顔で僕に声を掛けた。

…僕らは喧嘩をしていなかったか?
だから僕を置いて故郷に帰ったんじゃないのか?

そんな疑問が頭に浮かんだけれど、僕は彼の顔を見られて嬉しかった。
だって僕に微笑みかけてくれたから。

「…いつ、帰ってきたんですか?」

嬉しいと素直に言えない僕は当たり障りのない言葉を彼に投げる。

「あぁ、昨日の夜中。車で帰っちまったからさ、参ったぜ」

どうして、そんなに普通なんですか?
僕と喧嘩をして2日間も離れていたのに平気だったんですか?
貴方、僕に怒っていたんじゃないんですか?
帰るって連絡してくれなかった癖に…

聞きたいこと、言いたいことが山ほどあるのに口に出せない。
経理女史がいるから当たり前なんだけれど…

「…今日、仕事終わったら俺ん宅来てくれる?」
「……」

小声でそんな事を言われて、僕はぐちゃぐちゃに考えていたのに、その場で頷いてしまった。

夕方。
僕だけ取材が入っていたので虎徹さんには後から伺う事だけ伝え、オフィスを出た。
こんな状態で僕は彼の家に行ってもいいんだろうか?
家に招待されたのは嬉しい。
ここ2日、恋焦がれていた相手だ。
喧嘩をしていたとしても彼と2人で過ごせると思えば嬉しい以外にない。
だけど……もし、別れ話をされるとしたら?
喧嘩をして、彼も怒って故郷に帰って、気を落ち着かせて、もしかしたら僕の事を煩わしくなってしまったんだとしたら?
僕を家に呼んでちゃんと面と向かって別れ話をするつもりでいるんだとしたら?

……いやだ……
それは絶対に嫌だ…
僕は彼を愛してる。
彼の隣にずっといたいし、離れたくない…
こんな事なら小言なんか言わなければ良かった…
確かに仕事で忙しくて、2人きりになる時間が少なかった。
本当に一緒に眠るだけの時間しかなくて、ゆっくり話すことも出来なかった。
だから、やっとゆっくり出来る時間を彼はロックバイソンさんと飲みに行くと言われてイライラした。
それで売り言葉に買い言葉。
ひどい事を言ってしまったんだ…


「…ビーさん?…バーナビーさん?」

グルグル回る思考が誰かに呼ばれて止まった。

「はい?」
「大丈夫ですか?」
「あ、すみません…」

インタビュアーが心配そうに僕の顔をのぞき込む。

そうだ…今は取材を受けている途中だった…

インタビュアーに心配かけまいと僕はとびきりの笑顔でなんともないと首を横に降った。



インタビューが終わり、スタッフの方々から飲みの誘いがあったけれど、虎徹さんの家に行かないといけないから丁重に断りをした。
普段なら彼の家にお邪魔するのが嬉しくてドキドキしているけれど、今日は気分が優れない。
別れ話かもしれないと思うと気が重いのだ。

彼の家に着いた僕は何度か扉の前で深呼吸をし、チャイムを鳴らした。

『はぁ〜い』

返事をして玄関を開ける。

「おかえり、バニー」

いつもと変わらない笑顔があって僕は戸惑いながらも中へ入った。

…どういうつもりだろう?
喧嘩なんかしていないように普通に接して…
…………もしかしたら、さっぱり別れるつもりなのだろうか?
仕事ではバディだからぎこちなさを無くすように事を進めるつもりなんだろうか?

貴方のように大人になれない。
貴方に会うまでの僕なら出来た事が今は…出来ない…

「バニー?話聞いてた?」
「…あ、すみません…」

頭の中がグルグルして虎徹さんのお話を聞いていなかった。

「今日は止めておくか?」
「あ、いえ…大丈夫です」

そろそろ覚悟を決めなければいけないな。
もし虎徹さんから別れ話をされても僕は嫌だとはっきり告げてやる。

「虎徹さん!」
「な、なんだよ?」
「あの…!僕は!別れる気はないですから!!」
「…はぁ〜?」
「た、確かに、僕も言い過ぎた部分もありますけど!虎徹さんだって悪いんですからね!やたらと女性に優しいし、あんな笑顔見せたら女性が虎徹さんの事、好きになっちゃうじゃないですか!」
「……」

思わず勢いで言ってしまった。
突然僕が叫ぶから虎徹さんは口を開けて驚いている。

「あ…え〜っ、と…バーナビーさん?」
「…はい」
「俺…お前と別れる気ねぇよ?」
「………え?」
「なに、お前…別れ話だと思ったの?」
「え?あ、だって、僕ら、喧嘩して、貴方、ご実家に帰られるし…もしかしたら、貴方が、僕の事…」
「…ったく…」

クスリと笑った虎徹さんがふわりと僕を抱きしめた。
僕を安心させるようにポンポンと背中を叩く。

「早とちりだな、ばにーちゃんは」

少し落ち着いてから虎徹さんが言った。
そして、

「俺が実家に帰ったのは楓や母ちゃんにバニーとの結婚を許して貰うためだ」
「え?」
「母ちゃんや兄貴には付き合ってる事は前に言ってたしOK出たんだけど、楓がさ」

え?…今、この人はなんて言った?
ご家族に僕との交際を言っていたって?
…いや、それよりも…結婚?結婚って言った、この人?

「中々許してくんなくて…まぁしょ〜がねぇんだけどな?お前の大ファンだし、親の再婚相手が男ってのもあるしさ…でも、まぁ……なんとか許してくれたんだ」

…結婚なんて聞いてない…
しかも…楓ちゃんが…許してくれただって?

「だから、バニー…」

虎徹さんが僕の左手を取り、薬指に指輪を嵌め、

「俺と家族になってくれ」

少し照れたように笑った。




おわり…
 

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