BL小説(TIGER&BUNNY編2)
□☆【虎兎】半年だけの恋人
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バニーの唇は柔らかくて気持ちがイイ。
くぐもったバニーの声に俺は頭ん中に電流が走った。
ほっぺに添えていた手を首の後ろに回して、もう片方の手に持っていたビールを窓辺に置いてからバニーの腰を引き寄せて抱きしめた。
「んんっ…んっ…」
苦しそうにバニーが俺の胸を手で叩く。
上手く息が出来ないみたいだ。
少しだけ口を離してやるとバニーは酸素を取り込もうと口を開いた。
そのまま離れるのが嫌で俺はバニーの口の中に舌を差し入れる。
ビックリしたバニーは舌を引っこめた。
それを逃がさず絡め取る。
バニーの舌も柔らかくて…夢中になって絡めて…何度も何度も角度を変えて…
「…はぁ…どうし、て…?」
バニーが息も絶え絶えに呟く。
その瞳は潤んでいて…ドキッと胸が鳴った。
「…付き合ってんだから、そのくらい当たり前だろ?」
「……でも…」
最もらしい理由で答えた俺にバニーが困惑した表情をみせた。
「……」
俺は抱き寄せていたバニーの身体を離した。
「…わりぃ…ちょっと急すぎたな…」
「…虎徹、さん…」
「こういう事はほんとに好きな相手とする事だぜバニー?」
ほんとに好きになった女と…な?
小さく笑って俺は窓辺に置いたビールを持ち、プルトップを開けた。
あれから3ヶ月…
あの日、俺は普通にビールを飲み始めて普通に喋って普通に帰った。
バニーの顔を見たらなんも言えなかった。
俺はあの時からバニーの事が気になりだしていた。
バニーの唇の感触…抱き寄せた時の甘い匂い…
女のような柔らかさはない身体なのに、俺は不覚にも感じた。
「…はぁ〜」
「虎徹さん?手が動いてませんよ?」
でっかいため息をついた俺にバニーが声をかけてきた。
「…わ〜ってるよ〜」
「少し手伝いますから頑張って下さい?」
そう言って山積みになっている俺の書類をごそっと掴んだ。
…なんつー可愛い顔して笑うんだ、ちくしょー…
ガシガシと頭を掻いて赤くなっただろう顔を見せないようにしながら残った書類に手を伸ばした。
キスをしたってーのにバニーの俺に対する態度が変わんねぇ〜ってのはどういう事なんだ?
男の俺とキス、しかもそうとう濃いやつをしたのに俺に対して警戒心もなんもねぇ。
それってやっぱ俺になんの感情もねぇっつー事だよな?
…クソッ…どうしてくれんだよ??
俺、初恋が実っちまった人だから正直失恋とか経験ねぇんだぞ?
それが初めて失恋する相手がバニーだぞ?
…なんかバニーから付き合ってくれって(お試しだけど)言われたのにこれじゃあ俺の片思いみたいだ…
あと3ヵ月したら俺は振られて元通りのバディに戻る…
そんで…バニーは好きな女とめでたく付き合って…俺はそれを見守って…
…くそっ…くそっ…!!
「虎徹さん?」
「どわぁっ?!」
「ボーっとしすぎですよ?」
「あ、わりぃ…」
「…それに、もう書類終わりましたから」
「へ?」
俺のデスクにあったはずの書類はバニーのデスクに全て移動されていた。
「は?え?…っと…??」
「この分だけ署名して下さい」
「あ…サンキュー…」
「…それと…今日…この後、時間あります…?」
「ん?いや、別にねぇけど…」
「…もし、出動がなければ…僕の家に来て貰えますか?」
バニーん宅?
あの日から今日までバニーん宅には行っていない。
なんだか行きにくくて、つーか行ったらあの日の事を思い出しそうで…
「落ち着いて話がしたいので…」
…これはもしかしたら別れ話か?
って別れ話ってなんだよ?!そもそも付き合いだってお試しだっての!!
「……おぅ、分かった…」
モヤモヤした気持ちのまま俺は頷く事しか出来なかった。
バニーの車に乗ってマンションまでの間、なんとも言えない空気に覆われていた。
……いたたまれねぇ…
バニーもどこか緊張してるみたいで顔が強張っている。
「…なぁ?」
「…はい?」
「腹減らねぇ?」
「…いえ、僕は……あ、やっぱりお腹空きましたね…」
「じゃあどっか食いに行こうぜ?」
「……」
出来る事ならバニーの家には行きたくない。
2人っきりになっちまうと…正直自信がねぇ…
「では何処かで適当に買いましょう?その方がゆっくり出来るし…」
「…あ、そう、ね…」
あ〜…時間稼ぎ出来なかった…
ハンドルを切るバニーを横目に俺はバレないように小さくため息をついた。
マーケットで軽く食べ物と飲み物を買った俺らはバニーのマンションに入った。
買い物袋を段差の床に並べる。
「そろそろテーブルセットを買った方がいいですかね?」
ちょっと照れた顔をして俺を見るバニー。
それに曖昧に答える俺。
缶ビールのプルトップを空けて、ワインの入ったグラスとカチンと合わせる。
バニーは今日の出来事を楽しげに話している。
それにそこそこの相槌を打ってはビールを口に流し込む。
つーか、なんなの??
これって別れ話する雰囲気じゃねぇよな??
だってすげぇ笑ってんもん!
なんなら時々顔とか赤くなってんもん!!
…つーか……やっぱ可愛いよな〜…
ほっぺなんかピンクにしちまってマジでヤバイ!
「聞いてます虎徹さん?」
首を傾げて俺を伺うバニーが可愛くて俺は思わずバニーのほっぺに手を添えた。
「え?」
「あ、あのさ、バニー…」
「……」
見る見るうちに真っ赤になるバニーを見て俺は我に返った。
ほっぺに添えていた手を勢いよく離す。
「あっ、えっと…話がしてぇって言ってたけど…」
変な空気になって俺はなんか喋らなきゃと思って口を開いた。
「あ…はぃ…」
そのまま俯いたバニーは口をつぐむ。
つづけて、
「…あの…ですね…この間、虎徹さんがうちに来た時に…言ってたじゃないですか?」
「何を…?」
「"本当に好きなヤツとするもん"だって…それって…どういう意味ですか?」
「いや、それは…」
あん時はもう頭ん中ぐちゃぐちゃで女に持ってかれるって思って…でも目の前に可愛いバニーがいて…キスしちまって…
「つ、つまりな…俺とお前は今…試しで付き合ってるけど…キスとかその先の事は、ほんとに好きになったヤツとするもんだよな〜って…」
「………」
「だから…」
そこから俺は口を開けなかった。
この先の言葉はきっと別れを口にしなくちゃならない。
でも俺は自分からしたくねぇ。
寧ろこのままずっと……
…クスッ…
俯いてしまった俺の隣から微かに笑いが漏れた。
弾かれるように見るとバニーが柔らかい笑顔を向けていた。
ドキッとした。
「…その話で言うと貴方は僕の事が好きだという事になりますけど…違いますか?」
「ふぇ?」
「貴方は僕にキスをした。キスとは本当に好きな人とするものだと貴方は言った。という事はそういう事でしょ?」
………………………………
あああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー?!?!
そっか!そういう事になるか!!
え?いや?なに?俺がモヤモヤイライラしてたのってそーいー事??
そーいー意味でバニーの事好きになってるって事????
頭を抱えて唸っている俺に呆れた顔をして、でも笑っているバニー。
「…まさか貴方が僕にそういった感情を抱くとは思っていなかったです…完全なる誤算でした…」
誤算?
「嬉しい誤算でしたけどね…?」
嬉しい誤算?
そう言ってバニーはゆっくりと俺に近づいた。
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