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□行かないで
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「融合完了」





そう呟いたボボパッチの助は、一瞬でその場から消えた。












―OVER城





「ふぅ・・・」




ため息をつく女子が一人。




女湯の掃除をしていた黄河文明だ。





「・・・よし、脱衣場は終わったな。あとは浴場だ」



ブラシや洗剤を持って浴場に入る黄河文明。







「いつも思うけど、ハレクラニの城ほどじゃねーが無駄に広いなあ…」

「全くだ」

「大体俺とルビーくらいしか使わねーし」

「うんうん」

「あーそういえば、このシャワー壊れてたな・・・どーすんだろ」

「ハレクラニに金をせびって業者を呼べばいいじゃないか」

「おお、まさしくその通・・・・り・・・!?」



黄河文明がその手があったか!っ手を打つポーズのまま固まっていた。




「うわああああ!?おまっ…ここ、女湯っ・・・!」

「何だ、ようやく気づいたのか」







そう、ボボパッチの助は・・・



女湯に、というか黄河文明の背後にテレポートしてきたのだ。(ママチャリで・・・?)


前もいきなり現れたことがあったので、現れたこと自体には黄河文明も突っ込まない。


・・・だが、現れたのが女湯となると・・・




「ちょ、出てけ!この変態!」


黄河がボボパッチの助をぐいぐいと押す。

だが体格差もありボボパッチの助はびくともしない。


「まあ、そんなつれないことを言うな。今日はお前が気づくのが遅れたから、あと30秒もない」

「・・・え、」



黄河文明は少し驚いたような寂しそうなような表情を浮かべた。




ボボパッチの助はそれを見逃さず、フ・・・と小さく笑みを浮かべる。

寂しいのか?なんて言葉をかけている暇はない。というより、何も言わないという意地悪をすることが楽しいから。





「まあ、そういうわけで」


「わ・・・っ」


ボボパッチの助は黄河文明の手首をつかみ、浴場の壁に押し付ける。


しかし風呂は滑るし心臓は跳ねるしで黄河文明はぺたんと座り込んでしまい、ボボパッチの助も低い姿勢になったので、なんだか押し倒したような状況になってしまった。
(実際押し倒したようなものだが…)



「・・・」

「そう、睨むな」





ボボパッチの助は黄河文明の柔らかい唇にキスをした。



「・・・っ」



触れるだけ。

決して舌を入れたりはしていないのに、それでもぎゅっと目を閉じる黄河文明。




それが可愛くて、うっすらと笑みを浮かべるボボパッチの助。



「・・・な、何だよ」



おそるおそる目を開ける黄河文明。




別に、とさえも言わずにボボパッチの助は黄河から目を反らす。


(・・・そういえば、このシャワー壊れてるとか言ってたな)


ボボパッチの助は出来心でシャワーをガンと叩いた。




・・・すると・・・








ザアアアアアアアー!!!!



「うおっ!?」

「ちょ、何してんだおまっ…ゴブッ!」










明らかに尋常ではない量と勢いのある水が、二人の全身に降り注いだ。





「壊れてるってさっき言っただろうが!!!」


「痛っ!悪かったよ!出来心だったんです!!!」




ボボパッチの助は水と黄河に叩かれながら、シャワーをまたガンガン叩いた。


すると、案外あっけなくシャワーは止まった…が







「・・・・・・」





二人の体はびしょ濡れだった。







「テメー・・・」



「・・・いや、何か・・・マジですいません」





ボボパッチの助は青い顔をして謝った・・・と思いきや、逆に真っ赤な鼻血を垂らしていた。




「げ・・・汚なっ」


黄河が明らかに身を引く。




「・・・や、だって・・・」




ボボパッチの助は鼻を押さえながら、黄河の胸元を指差す。




「・・・げ」




黄河は素早く自分の胸元を隠し、顔をこれ以上ないほど赤面させた。



掃除をするにあたって、服が汚れないよう胸にサラシを巻いただけの状態ということをすっかり忘れていた黄河。

・・・まあ当然、水を浴びて透けてしまったわけだ。







「・・・お前のせいで・・・」

「・・・えろっ」




黄河がボボパッチの助を睨み付ける。



「・・・悪かったって」


「・・・」


「何か言おうぜ」


「・・・」


「・・・」


「・・・自分だって無視することあるくせに」




ボボパッチの助は答えなかった。

(・・・だってお前、こうでもしないと・・・)




ボボパッチの助が完全無視を貫いたので、黄河の方から口を開いた。



「・・・お前、さいてー・・・」



黄河は震える声でそれだけ言って、顔を伏せてしまった。



黄河の声を聞いたとき、ボボパッチの助は少し動揺した。
マズイ。
調子に乗りすぎた。
正直、普段男として通しているこの女は、少々のことでは折れない。
が・・・


溜まりに溜まったものが、今溢れた。





さすがに目の前で目を赤く腫らして泣いている女に、意地の悪いことはできない。
できないし、したくない。




「・・・ごめん」




ボボパッチの助は、全身びしょ濡れの黄河を抱き締めた。





「・・・もっ、やだ・・・バカだし変態だし・・・最低っ・・・意地悪・・・!」




嗚咽を交えながら罵倒する彼女を可愛いと思うのも、バカ故か、マゾ故か。




「・・・ごめん、調子乗りすぎた。お前があんまりにも可愛いから、意地悪したくなって」




「・・・うっせ」




「すき」




「うるさい」





「マジで、すき」







ボボパッチの助は、顔を上げない黄河の唇に、もう一度優しくキスをした。






「・・・オレは、女らしくて可愛い奴も好きだけど。

いつもみたいに、バカヤローってオレに怒ってくれる黄河のことが、すきだよ」




「・・・そーかよ・・・」



「・・・だから、さ・・・

泣かないで?」






黄河が顔を上げる。





「・・・お前が泣かせたくせにっ・・・」


「ごめん、って。じゃ、お詫びに1つ言うこと聞くからさ!」


「・・・本当か?」



「本当」



「・・・時間なくても?」





黄河に聞かれ、ハッと我にかえる。





「・・・っやべ、時間」




あわてふためくボボパッチの助。



―その時



「っ!」




突然のことに少し驚いたボボパッチの助。


だがボボパッチの助が驚くのも仕方ない。


何せ、初めて黄河の方からボボパッチの助の唇を奪ったのだから。




「・・・」



黄河が小さく口を開く。





「・・・会えなくて、寂しい」





また顔を伏せてしまったが、震える声から表情を読むのは容易かった。





「・・・黄河・・・」





既に、ボボパッチの助からは融合解除のための煙が出ていた。





「・・・もう、時間が」



そのとき、黄河が顔を上げた。





「・・・行かないで・・・って言っても、無駄なんだろ」






そう言う黄河の顔は、ボボパッチの助の心を刺すのには十分なくらいに切ない表情を映していた。




「・・・期限つきで、ごめん・・・な。また来るからさ」



ボボパッチは黄河の涙を指で拭った。



「待っててくれ」




そう残して、跡形もなく消えた。
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