「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第29話「お見事でした。」
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「来ました。律さん。」
黒子は小さく声を上げる。
律はすかさず走ってきた男の前に立ちはだかると、黒子を背中にかばった。

黒子と律に付きまとう謎の影。
それを誘き出すために、律と黒子はマンション敷地内の庭園を散歩していた。
いや、厳密には散歩しているように見せかけていた。
犯人をおびき寄せるためだ。

律は普段のままの格好だが、黒子は美少女メイクで別人の装いだ。
黒子曰く、これで釣れる可能性が高いという。
火神と青峰は先程まで、見張りを兼ねてジョギングをしていた。
2人とも何かあれば、暴れる気満々だ。
だが黒子は律に「多分2人の出番はないですね」と言った。

後で律が火神に聞いたところによると、黒子は高校時代から作戦立案は得意なのだという。
状況判断に優れ、バスケの試合でピンチの時には、思いもよらない打開策を打ち出すことも多かったと。
今の状況はまさにそれだ。
黒子の作戦で、全員が動いている。

「出番がないって、一番腕力がありそうな2人なのに?」
「だからこそ、格好のフェイクになるんですよ。」
「でも2人は、出番がほぼないことを知ってるの?」
「事前に教えるわけないでしょう。文句を言うに決まってます。」

2人は恋人同士のように身を寄せ合って、ヒソヒソと話している。
だが話の内容がこんな色気がないなんて、見ている人間は誰も気づかないだろう。
仲のいい恋人同士、何ならベタベタのバカップルに見えるはずだ。

やがて火神と青峰が、ジョギングを切り上げて、庭園を出ていった。
黒子と律はゆっくりと歩いているが、彼らはずっと走っている。
だから先に消耗するのは当たり前だ。
一度着替えて、今度は散歩をよそおって戻って来る手はずだ。
そして黒子が予想する襲撃ポイントは2人が一度姿を消す、まさに今だ。
黒子はベンチに座る高野を見た。
いざという時のバックアップは、高野になるはずだ。

「来ました。律さん。」
黒子は小さく声を上げる。
律はすかさず走ってきた男の前に立ちはだかると、黒子を背中にかばった。
2人の背後から、1人の男が駆け寄ってきたからだ。
年齢は40代くらいのアジア系の男だ。
男は明らかに黒子めがけて襲ってきたが、律が素早く動いたことで一瞬戸惑ったようだ。

「Freeze(動くな)!」
律はそう叫んだが、男は止まらない。
手に持っていたナイフを振りかざして、襲い掛かって来る。
律は怯むことなく、振り下ろされたその腕を掴んだ。
そして思い切り蹴り上げて、ナイフを落とさせる。
凶器は捨てさせたし、黒子が念のために銃を構えてフォローしてくれる。
高野もこちらに駆け寄って来てくれたし、怖いものなしだ。

律はそのまま男の手を後手に捩り上げると、ひざ裏を蹴ってうつ伏せに倒した。
すかさず黒子が男の両腕を取り、用意していたロープでしっかりと縛り上げる。
まさに一瞬で決着だ。
律は今まで護身用に学んできた格闘術を、初めてまともに使ったのだった。

「お見事でした。」
美少女黒子は、いつもの通りの無表情でそう告げる。
その横で高野がホッとした表情で「よくやった」と褒めてくれた。
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