「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その7
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「いいよなぁ、三橋って」
御幸は本当に嬉しそうに三橋を見ている。
沢村はそんな御幸に心がザワついたが、その理由がよくわからずに困惑していた。

練習試合の日程も、午後の後半戦になった。
青道一軍対西浦高校2年生チームの対戦だ。
青道の先発は沢村、御幸のバッテリー。
投げたくてウズウズしていた沢村も気合いが入っていた。

対する西浦はもちろん三橋と阿部のバッテリーだ。
アクシデントで午前中にリリーフした三橋だが、疲れなど微塵もない。
前回の練習試合の時とフォームが変わっており、球威も増している。
表情は落ち着いていて、強豪相手に怯む素振りは微塵もなかった。

「そんなつもりはなかったんですけど、ちょっとナメていたかもしれません。」
殊勝にもそんなことを言い出したのは、1年生捕手の由井薫だった。
先攻は青道なので、まずマウンドに上がったのは三橋。
青道の選手はベンチから西浦高校を見ている。

「県立にしては強い。そんなくくりで収まらないチームですね。」
由井の言葉に、なぜか御幸がドヤ顔で「だろ?」と応じている。
1年生は西浦というチームに対して、ほぼ初見だ。
実績などから判断すれば「県立で3年生がいないわりには強い」としか評せない。
だが実際試合で目の当たりにして、さすがにこのチームの強さに気付いたようだ。

「おそらく10回試合をすれば、ほとんどの県立校ならうちが全勝する。」
御幸はマウンドの三橋を見ながら、そう言った。
由井だけでなく、奥村も頷いている。
御幸はドヤ顔のまま「けど、西浦は違う」と続けた。

「10回のうち1、2回は勝ってくる。しかもそれを公式戦に持って来る力があるんだ。」
御幸の言葉に、他の2、3年生も頷いている。
一見して選手たちは皆明るく、前向きだ。
それなのに、どこか得体の知れない雰囲気があるのだ。
油断すればやられる、そんな不気味さが。

「だけど個人的には三橋みたいなピッチャー、好きなんだよな。」
さらに続いた御幸の言葉に、青道ベンチの全員が三橋に注目する。
格上の青道相手だが、その表情にはまったく気負ったところが見えない。
それでいて絶対に勝つのだという強い意思だけは伝わってくる。
そしてコントロールは相変わらず絶妙だ。
練習と同じ制球力を試合でも発揮するのは、並大抵のことではないのだ。

「確かにこれだけのコントロールだとリードのし甲斐がありますね。」
「ああ。うちもそうだが大体の投手のストライクゾーンは4分割だろ?」
「ええ。それでもきちんと投げ分けられればすごいですよね?」
「もちろん。だけど三橋は9分割だそうだ。」
「え!?」

御幸の解説に、話を振った由井も奥村も驚く。
2人とも捕手だから、御幸の言葉はより深く理解できた。
青道ではコースのサインは内外と高低、2×2で4分割。
だけど三橋は内中外と高中低。3×3で9分割なのだ。
これが決まるのは、プロでも早々できない制球力だ。

「いいよなぁ、三橋って。いつか組んでみたい。」
御幸は本当に嬉しそうに三橋を見ている。
沢村はそんな御幸に、妙に心がザワついた。

何だよ。三橋、三橋って。
沢村は面白くないのだが、その理由がよくわからずに困惑する。
三橋のことは大好きなのだ。
同じ投手としても尊敬できるし、妙に可愛らしいキャラも気に入っている。
それなのにどうしてこんな気持ちになるのか、自分でもわからない。

1回の表は3人で打ち取られ、チェンジになった。
沢村は「よっしゃ!」と気合いを入れながら、ベンチを飛び出していく。
とにかく今はこの気持ちは封印。
マウンドに上がったからには、最善のピッチングをするだけだ。
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