「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その9
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「本当に大丈夫か?」
阿部が心配そうに、三橋の顔を覗き込んで来る。
三橋は「だい、じょぶ!」と答えながら、心配性気味な気遣いを嬉しく思った。

監督室を出た青道、西浦の両バッテリーは食堂に向かう。
惜しくもノーゲームとなってしまった練習試合。
だが御幸と沢村は今日の投球について話しながら、足早に歩いていく。
その後ろをやや遅れて歩いていた三橋は、チラリと阿部を見た。
自分たちも投球について話さなくていいのかと思ったのだ。

だが阿部は未だに心配そうに、三橋を見ている。
そして本日何度目かわからない「大丈夫?」をまた口にした。
レーザーポインターを当てられたことを、まだ気にしているのだ。
捕手はよく「恋女房」などと言われるが、阿部は本当に世話焼き女房だ。
田島や泉には「ウザい」と評される過保護っぷりだが、三橋は普通に嬉しかった。

「だい、じょぶ!何かあったら、ちゃんと、言う!」
三橋がそう答えても、阿部はまだ心配顔だ。
だが不意に「あ、タオル。置いて来ちまった!」と声を上げる。
三橋のことばかり気にしていた阿部は、監督室に忘れ物をしたらしい。
まったく自分のことは二の次なのだからと、三橋は笑った。

「と、取りに、戻る?」
「ああ。三橋は先に戻っとけ。身体を冷やすとよくない。」
たかがタオルを取りに戻る間に、冷えたりしない。
三橋はそう思ったけれど、素直に「うん」と頷く。
そして監督室に駆け戻る阿部を見送ると、食堂に向かって歩き出した。

御幸と沢村はもうかなり先を歩いていた。
だけど勝手知ったる青道の寮、食堂の場所もわかっている。
別に無理に追いつく必要もないだろう。
ゆっくりと歩き出した三橋は「ねぇ」と声をかけられた。

「西浦高校の投手の人だよね?」
声をかけてきたのは、1人の女子生徒だった。
青道の制服であるブレザーを着ている。
三橋はコクンと頷いたところで、首を傾げた。
青道のマネージャーの顔はうろ覚えだけれど、その誰でもない気がしたのだ。
ここは野球部関係者でない生徒が簡単には入れるのだろうか?

「ちょっと来てもらえる?聞きたいことがあるの。」
「でも、オレ、食堂に」
「ちょっとだけでいいから。お願い!」

拝むように手を合わせられれば、否とは言えない。
三橋はそういう性格なのだ。
弱々しく「ちょっと、だけ、なら」と念を押す。
そして先に立って歩き出した彼女の後を追った。

女子生徒は食堂とは反対方向に歩き、外に出てしまった。
さらに寮を出た途端に、スタスタと歩調を速める。
三橋は「ちょっと、だけ、なのに」とボソボソ文句を言った。
だが聞こえているのか、いないのか。
そして2人がやって来たのは、寮からは少し離れた校舎だった。

2人が落ち着いたのはその校舎の1階、誰もいない教室だ。
週末だからだけではなく、おそらく日頃も使っていないのだろう。
埃っぽい空気を吸い込みながら、三橋はそんなことを思う。
ドアを閉め、完全な密室になったところで、女子生徒はようやく三橋と向き合った。

「き、聞きたい、ことって」
「あなた、御幸君のこと好き?」
予想外の質問に、三橋は「へ?」と首を傾げた。
そして「御幸君」と呼んだということは、この人も3年生かと思う。
だがはっきり答えない三橋に、女子生徒はややイラついた表情を見せた。

「どうなのよ。」
「す、好きです!」
三橋は思いっきりそう答えたところで、まずいと思った。
この勢いでは三橋が御幸を恋愛対象と見ているようにも取られかねない雰囲気だ。
三橋は誤解されたところで問題ないが、後々御幸に迷惑をかけるかもしれない。

「み、御幸先輩、だけじゃ、なくて。青道の人、みんな、好きです!」
三橋は慌てて、訂正を入れた。
さらに「みんな、いい、人!」とさらに付け加える。
すると女子生徒はポカンとした顔で「マジで?」と聞いてきた。

「ま、マジ、です」
三橋はそう答えて、首を傾げた。
別に間違えたことを言ったつもりはない。
なのに彼女は何でこんなリアクションなのだろう?
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