「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その11
1ページ/3ページ

「よいしょっと」
篠岡は掛け声とともに、足元に大きな紙袋を置く。
春乃は同じような袋をその隣に置き、そのまま交換となった。

青道高校と西浦高校の練習試合は、異例なまま終わった。
試合はアクシデントで中断、そして最後は軽い合同練習。
だけど雰囲気は悪くなかった。
和やかなムードで身体を動かし、談笑し、お開きとなったのだ。

そして西浦高校が引き上げる時間になり、車が準備された。
青道高校は専用バスを持っているが、西浦はない。
遠征の度に借りているのだそうだ。
だが西浦の選手たちは、そんなことはまるで気にしていない。
青道の選手たちと「また会おう」と握手を交わし、ゆっくりと乗り込んでいく。

そんな中、青道のマネージャー吉川春乃は西浦のマネージャー篠岡千代と向かい合っていた。
単に別れを惜しむだけではない。
彼女たちの足元には、大きな重い紙袋。
中にはDVDのディスクや書類、つまりデータだった。
西浦はARC学園や千朶高校など、埼玉の強豪のデータを多く持っている。
対する青道は稲実や市大三高など、東京のデータだ。
それらを交換して、大いに役立てようという作戦だった。

「じゃあまたね。春乃ちゃん」
「うん。千代ちゃん!」
データを交換すると、春乃は紙袋を抱えて車に乗り込む篠岡を見送った。

すごいよなぁ。千代ちゃんは。
春乃は篠岡のことを考えるとき、いつもその結論に落ち着く。
2年になった春乃は、未だに先輩の梅本や夏川に頼りまくりだ。
だが千代は昨年、1年生でたった1人でマネージャーをこなしていたのだ。
そして今年は後輩マネージャーをしっかり指導している。
篠岡は「うちは人数少ないから」と笑って謙遜するが、春乃はやはりすごいと思う。

「それデータだろ?持ってってやるよ。」
春乃に声をかけてきたのは、金丸だ。
同じ学年で今年からは同じクラスの金丸は、春乃にとって沢村の次に話しやすい相手だ。
春乃は慌てて「そんな。マネージャーの仕事だから」とことわる。
だが今度は東条が「やらせちゃいなよ」と割り込んできた。
結局重い紙袋は金丸が持つことになり、3人で並んで歩き出した。

「西浦ってすごいな。部を創立したのが去年でこんなにデータを持ってんのか。」
「うん。うちのデータと量はそんなに変わらない。」
「コピーするだけでも、一苦労だよな?」
「西浦の方が大変だと思う。こっちはマネージャー5人だけど、向こうは2人だし」

会話をしているのは金丸と春乃で、東条はニコニコと頷いている。
春乃は会話が切れたタイミングで、西浦の車の方を振り返った。
ドアの前で話し込んでいるのは、三橋と沢村。
そして阿部は当然のように三橋の横を陣取り、御幸は沢村の隣で笑っている。
投手と捕手はまるでカップルのようで、彼らとの距離を感じてしまう。

「大丈夫?」
思わずため息をつきかけた春乃だったが、東条に問われて我に返った。
そして慌てて「うん。全然平気」と笑う。
だが答えながらも何が平気なのかわかっていない。
金丸は「マネージャーだって、練習試合のサポートとか疲れるだろ」と微妙にズレたことを言った。

沢村が気になる春乃と、その春乃が気になる金丸。
だが沢村が誰よりも気になり、認めて欲しがっているのは御幸だ。
恋まではいかない、微妙なトライアングル。
当事者である春乃も金丸もよくわかっていないが、実は東条が看破していたりする。

「なんかもう、微妙だよなぁ」
思わず呟いた東条に、春乃は「何が?」と聞き返した。
そして東条が「今日の試合が」とごまかしたことに、特に疑問も抱かず「そうだね」と頷いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ