「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その12
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「あの人と時々電話してんのかぁ〜?」
沢村は軽い口調でそう聞いた。
周りの人間が一瞬、ピリッとしたようだが、まるで目に入っていなかった。

西浦高校との練習試合から数日後。
練習を終えた沢村は、三橋と電話で話していた。
同じ投手同士、この2人はウマが合う。
だからメールで短いやり取りはしょっちゅう行なっていた。

だが電話で話すのは、珍しい。
特に今は夏の大会に向けて、お互い忙しい時期だ。
それでも沢村は三橋に電話をしていた。
一方通行ではなく、話を聞きたかったからだ。

「よぉ、元気かぁ?」
寮の通路に置かれた木製のベンチに座り、沢村は話をしている。
三橋に限らず、電話やメールなどのときにはここですることが多かった。
もちろん多くの部員が行き来している場所。
沢村が電話しているのも見慣れており、特に注意を払う者もいない。

『げ、元気、だよ。栄純、君!』
吃音気味だが大きな声が、沢村のスマホから漏れている。
通話相手が三橋と知れた途端に、そこにいた全員が聞き耳を立てた。
何となくすっきりしない事件の後、犯人の女子生徒と三橋がメアド交換をした。
だから部員たちは、その後の状況が気になっているのである。

「もうすぐ大会だろ。そっちは背番号、決まったか?」
『うん。2年、は、みんな、そのまま!』
「そっかぁ。じゃあその緊張感はねぇんだな!」

なぜか「ははは」と高笑いする沢村だが、内心少々羨ましくはあった。
1年のときから、三橋はずっとエースナンバーを背負っているからだ。
ちなみに青道高校はベンチ入りメンバー20名は発表されたが、背番号はまだだ。
降谷が「1」を守るか、沢村が奪い取るか。
それは当の2人だけではなく、青道高校野球部員全員の関心事だ。

だけど同時に考えてしまう。
実力で勝ち取るエースナンバーと、1人で守らなければならないエースナンバー。
どちらがより重いのだろう。
ただ1つわかっているのは、三橋だって決して楽をしているわけではないということだ。

「ところでさ、あの人のことなんだけど!」
『あの人?』
「あの人と時々電話してんのかぁ〜?」
『ああ、あの人、だね。』

電話口で三橋が笑う気配が伝わる。
あの事件の犯人、御幸のクラスの女子生徒だ。
沢村の方が同じ学校であり、彼女との距離はずっと近い。
だが3年生の生徒はほとんど交流がない。
御幸や倉持に聞くのも何か憚られ、こうして三橋に聞いている。
何しろ三橋は、彼女とメル友になったと豪語していたのだから。

『メール、だよ。今日は、進路、の話。』
「しんろ?」
『3年生、だから。大学、行く、みたい。』
「へぇぇ。そっかぁ!」

聞きたいこととは、何か違う気がした。
でもとりあえず彼女が普通に高校3年生していることは伝わってくる。
だから沢村は「よかった!」とまた高笑いだ。
聞き耳を立てていた部員たちは心の中で「そうじゃねぇだろ」とツッコミを入れる。
だが通話を終え、意気揚々と引き上げる沢村にはその声は届かなかった。
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