「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その13
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「うぉぉ!」
携帯電話を確認した三橋は、声を上げた。
野球部の練習、数時間。
その間にいくつものメールが来ていたからだ。

夏の大会まであとわずか。
週末は練習試合ばかりだし、平日の練習も実戦形式が増えている。
早朝から夜、練習ができるギリギリの時間まで。
西浦高校は青道のように、夜間の練習施設はない。
そのために限られた時間に集中し、濃密な練習をこなしている。

この日も練習を終え、部室に戻った。
部員たちは手早く着替えながら、帰りの相談をしている。
とりあえず腹を満たすためにコンビニに行く者、またはまっすぐ帰る者。
賑やかな声を聞きながら、三橋は携帯電話を確認して驚いたのだ。

「どうした?メール?」
三橋の様子を見て、田島がすかさず声をかけてきた。
そして「見て、いい?」と聞く。
三橋はコクコクと頷いた。
それは本来、三橋ではなくメールの差出人に取るべき許可だろう。
やり取りを聞いていた部員の何人かはそう思ったが、誰も何も言わなかった。

「おお!いっぱい、来てるな!」
「どれどれ。」
「沢村に御幸先輩、降谷と春市。倉持先輩もか?」
「青道ばっかじゃん!」

田島がマシンガンのように喋り、三橋はいちいち「うんうん」と頷いている。
短時間に来たメールは、青道高校野球部の面々からばかり。
ならば用件は察することができる。
あの事件の女子生徒とメールをやり取りしている三橋から、状況を聞きたいのだろう。

「あの、人から、も、来てる!」
受信メールの画面をスクロールさせた三橋は、件の女子生徒からのメールがあることに気付いた。
田島が「へぇぇ」と言いながら、すっと離れていく。
さすがにその文面を見るのはマナー違反と思ったのだろう。
三橋はメールを開いて、思わず「ながい」と声を上げた。
いつもなら数行しか書かれていないメールは、今回はその数倍はありそうだ。

その途端、部室のドアがバタンと勢いよく開いた。
もう着替え終わった阿部が「じゃあ」と出ていく。
わかりやすく不機嫌な様子に、三橋は「ハァァ」とため息をついた。

青道との練習試合の後から、阿部はずっとあんな感じなのだ。
部活の間は普段通り、三橋に声をかけてコンディションを気遣ってくれる。
だがそれ以外のこんな時間は、どこかよそよそしかった。
まるで入部したばがりのギクシャクしていた時期に戻ったようだ。

「オレたちも早く着替えて、コンビニ行こうぜ!」
田島が俯く三橋に声をかけてくれる。
だが三橋はフルフルと首を振り「今日は、帰る」と答えた。
気分も浮上しそうにないし、メールも読みたいし。
こんな日はとっとと帰って、食べて寝るに限る。

「そっか。わかった!」
何もかも心得た兄貴分の田島が二カッと笑った。
三橋も同じように笑顔を作ると、少し明るくなれたような気がした。
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