「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その14
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『ありがとうな。三橋』
電話の向こうから、御幸の声が聞こえる。
三橋は「は、はい。じゃ、また」と答えて、通話を終えた。

青道高校との練習試合で巻き込まれた、奇妙な事件。
三橋はなぜか犯人である女子生徒とメル友になっている。
短いメールのやり取り、しかも日にほんの1、2通。
だがそれが妙に楽しかった。

それは三橋の今までの交友関係のせいだった。
元々引っ込み思案で、幼少期から心を開ける友人はほとんどできなかった。
それに中学の野球部では無視されて、孤立していた。
つまりこんな風に頻繁にメールでやり取りする相手など、いなかったのだ。

そしてさらに不思議なことに、彼女と御幸と沢村が会うのをセッティングすることになった。
なんでわざわざ同じ学校に通う彼らの間を、埼玉にいる三橋が取り持つのか。
そう問われれば明確に答えることはできない。
それでもそれはそれで楽しい作業だった。
自分が何かの役に立てていると思うだけで、嬉しかったのだ。
ここ最近、阿部がなぜか三橋に怒っているような気がするから、尚更そう思う。

それじゃ、ごはんだ!
電話を終えた三橋は元気よく、キッチンに向かった。
今日は父も母も仕事で、家には帰らない。
だけど母はカレーを作っておいてくれたので、温めるだけでいい。
帰宅するなりスイッチを入れたご飯も、もうすぐ炊き上がる。
だがコンロに火をつける前に、玄関のチャイムが鳴った。

「うおぉ!」
三橋は驚き、声を上げた。
そして時計を見上げて、困惑する。
どう考えても、誰かが来るような時間じゃない。
まさか泥棒?でもそんな人はきっとチャイムなんか鳴らさない。

どうしよう。出た方がいいのか。
三橋が困惑していると、さらにチャイムが鳴った。
その音から、かなり勢いよく叩いているのがわかる。
どうしていいかわからず固まっていると連打になり、三橋はさらに驚いた。
どうしよう。電話で誰かに助けを求めるか。
三橋が携帯電話を取ろうとしたところで「開けろ!」と叫ぶ声が聞こえた。
聞き慣れた怒声に、三橋は思わず「へ?」と間抜けな声を上げた。

「あ、阿部、君!?」
訪問者の正体を理解した三橋は、玄関に走った。
鍵を外し、ガラガラと引き戸のドアを開けると、予想通り。
阿部がひどく取り乱した様子で立っていたのだ。

「ど、どした、の?」
三橋はその剣幕に完全に引きながらも、おずおずと問いかけた。
すると阿部は「大丈夫なのか!?」と三橋にグイッと詰め寄る。
何が大丈夫なのかはよくわからないが、三橋はコクコクと頷いた。
すると阿部は「よかった」と大きく息をつき、三橋を勢いよく抱き寄せた。

「う、わ、何!」
「いろいろ悪かった。」
驚き、固まった三橋だったが、次第に身体を力を抜いた。
何だかよく分からないけれど、今この瞬間はすごく幸せだと思ったからだ。
ここ最近のよくわからない不機嫌さをすっ飛ばして、阿部が三橋を真っ直ぐに見てくれている。
それが嬉しくて、三橋は阿部の腕の中で笑っていた。
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