「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その15
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『読めない、よぉ』
電話の向こうから、困ったような声が聞こえる。
沢村は思わず「ハァァ?」と声を上げると、電話の向こうから「ウェェ」と悲鳴が聞こえた。

夏の大会直前、青道高校ではベンチ入りメンバーの背番号が発表された。
エースナンバーは降谷か、それとも沢村か。
部員たちの間では、もっぱらそれが関心事だった。
だがその問題に決着がついたのだ。

背番号1、沢村栄純。
それは衝撃ではあったけれど、好意的に受け止められていた。
2人の素質も努力も、みんなが認めるところだったからだ。
おそらく降谷が「1」だとしても、全員納得で受け入れていただろう。

当の沢村はわかりやすく浮かれていた。
何せ念願のエースナンバーだ。
しかも降谷という圧倒的な存在を向こうに回して勝ち取った1番なのだ。
誰もがそれを微笑ましい思いで、見ていた。
そして渡された背番号をつけてくれるのは、マネージャー。
位置決めの仮縫いのときにも、嬉しくてたまらない。

「うぉぉ!」
スマホに収められた画像を見て、沢村は上機嫌だった。
ユニフォームに仮縫いされた1番をつけた、バックショットだ。
それを振り返るような自分の横顔も、そこそこ良く撮れていると思う。
撮影してくれたマネージャーたちも「カッコいいよ!」と言ってくれた。

その後も喜びの余韻は止まらなかった。
沢村は寮の通路のベンチにドッカリと腰を下ろすと、スマホを取り出す。
そして両親と幼なじみの若菜にメールを送った。
もちろん今撮ったばかりの背番号1も添付して。
すぐに「おめでとう」「やったね」とラインには祝福のメッセージが並んだ。
若菜は速攻で、中学時代のチームメイトたちにメールを回したようだ。

「他に誰かいねーかな。」
さらに浮かれる沢村の頭に浮かんだのは、三橋だった。
きっとあいつなら、喜んでくれるに違いない!
そうと決まればと、すぐにメールを送る。
だが数分もしないうちに、その三橋から電話がかかってきた。

『読めない、よぉ』
三橋の第一声は、困ったような声だった。
沢村は思わず「ハァァ?」と文句を言うと「ウェェ」と悲鳴が聞こえた。
どうやら剣幕と大声で驚かせてしまったらしい。
沢村は慌てて「ワリィ」とあやまった後「読めないって?」と聞いた。

『画像、ファイル、バッテンついてる。』
「なんでオレの背番号1の雄姿がバッテンなんだよ!」
『オ、オレ、ガラケー、だから』
「ガラケーだと読めねぇのかよ!?」
「それって常識でしょ?」

最後の言葉はたまたま通りかかった降谷だった。
するとその隣で小湊が「栄純君、知らなかったの?」と笑っている。
さらに金丸が「確かに常識だ!」と断言する。
かろうじて東条が「まぁ知り合いがみんなスマホだと意識しないよね」と苦笑交じりにフォローしてくれた。

『ゴ、ゴメン。栄純、君、おめで、とう!』
電話の向こうから、三橋が申し訳なさそうに祝福してくれる。
だが沢村のテンションはすっかり下がり、ガックリと肩を落とすのだった。
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