生きる5題+

□赤い華に憧れる
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「女性仮性半陰陽先天性副腎皮質過形成症」
「何だって?」
その長い名称を、ヒル魔は淀みなくスラスラと口にした。
だが栗田と武蔵は困惑し、顔を見合わせた。

神龍寺ナーガとの試合の数日ほど前の昼休み。
ヒル魔は栗田と武蔵を部室に呼び出し、それを伝えた。
なるべくセナに気を配らなくてはならないが、ヒル魔1人では限界もある。
それに栗田も武蔵もセナの不調に気づき始めている。
だからヒル魔は、まずは栗田と武蔵には話すことにしたのだろう。

本当はセナが自分で伝えると言ったという。
だがヒル魔は自分が話をすると、セナを納得させた。
セナにもう1度、同じ話をさせるのは酷過ぎる。
ヒル魔はそう考えたのだろう。

「それがアイツの病名だ。」
ヒル魔は冷静にそう告げる。
だが武蔵も栗田も、返す言葉がなかった。
長い病名には少しも馴染みがなく、どういう病気なのか見当もつかないのだ。

「要は遺伝子異常で元々女だったのに、男として育っちまったんだとよ。」
「はぁ?」
「最近、体調が悪いのは、ホルモンのバランスってやつが崩れてきてるんだと。」
「つまりセナは女ってことか?」

武蔵はようやく搾り出すようにそう言うのがやっとだった。
だがその言葉の重みに呆然とする。
元々女として生まれたのに、ホルモンの異常とやらで男として育ってしまった。
言葉にしてしまえば、あまりにあっけない。
だが性別が違うなんて、自分の存在の根本を揺るがせる一大事だ。
もし自分だったら、きっとアメフトどころではないだろう。

「考えてみりゃ納得だよな。あの身長と細さ。」
ヒル魔は武蔵の気持ちとは関係なしに、淡々と言葉を続けた。
確かにそれには武蔵も同意できる。
高1男子としては、あまりにも華奢なセナの身体。
体毛もほとんどないし、ヒゲなども皆無だ。
実は女性であり、ホルモンの異常だと言われれば、なるほどと思える。

「セナ君、このままアメフト続けられるの?」
ずっと黙っていた栗田が、口を開いた。
細い目はもうすでに涙で濡れている。
無類のお人好しは、セナの境遇に同情しているのだろう。
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